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第3話
「翔? 眠ってるの? ねえ、起きてよ」
部活の疲れからか君は教室に帰ってくると机に突っ伏して眠ってしまった。呆れながらもその寝顔をうっとりと眺める。鼻梁の整った顔。ユニホームから覗く伸びやかな肢体。すべて。すべてを……。
僕は好きだった。ただの好きじゃない。君は僕のすべてだ。愛しているんだ。胸を押し潰すような切ない想い。何を失っても、君だけは失いたくない。僕の人生に、君だけいればいい。君が僕を見つめてくれさえすれば。心の片隅にさえ置いてくれれば。
「……眠ってるんだよね? 翔」
僕は震えながら、そっと君の唇にキスをした。初めての口づけだった。君の健やかな寝顔を眺めながら、僕は涙した。
両親の離婚があっという間に決まり、両方が親権を拒否したため、僕は施設に入ることになった。当然私学に行けるはずもなく退学した。遠い土地に行かなければならなくなった。君とは突然別れることになったけれど、それでいいような気がした。僕は君が想ってくれるような気持ちを同じように返せるはずもなく、これ以上一緒にいたら気が狂ってしまうかもしれなかったし、君と出会えたことで僕は変わった。僕の小さな世界は無限に広がることがわかったし、君の存在があれば、君がどこにいようとそれだけで生きていけることがわかった。僕の人生は案外悪くないのだ、と思えるようになると、とても生きやすくなった。それもこれもみんな君のおかげだった。でも、いつか君に逢えたなら……。
「……もしかして、お子さんへのプレゼント?」
翔は大きなプレゼントを片手に持って、照れくさそうに頭を掻いた。
「そうそう! 娘が欲しいって言ってたから」
「かわいくて仕方がないんでしょう?」
「俺に似てかわいいよ。娘ってどうしてこんなにかわいいんだろうな」
幸せそうに微笑む翔を見て、つられて微笑んだ。
「……おまえも結婚したのか」
「うん、……まあ」
薬指に光る指輪。なんとなくくすぐったく思えて、僕は片手で隠した。
「おい、隠すなよ」
「いいじゃん、押さないでよ」
ひとしきり笑うと、翔は急に真顔になった。
「おまえ、なんで急にいなくなったんだよ。連絡もくれないで。心配したんだぞ」
「ごめんね、……でもこうして元気だから。心配しないで」
「俺さ、いつかおまえに逢えたら、言いたいことがあったんだ」
「……何?」
翔の真剣な眼差しに僕は息を呑んだ。
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