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最終話
「俺、あの頃、おまえのことが好きだったんだ」
風が、二人の間をざあっと吹き抜けていった。細かな雪が君の黒髪を飾って、綺麗だ。君はずっと綺麗なままなんだろう。きっと。
そして。僕も、いつか君に逢えたなら、伝えたいことがあった。ずっと。けれど。
「……ありがとう」
「……うん」
そのまま、立ちすくむ。互いの間には、長い月日が流れて。それはもう取り戻せない。僕は大きなプレゼントに目をやると、翔に発破を掛けた。
「ほら! お父さん! 早く帰らないと娘さんが待ってるよ!」
「あ、ああ! 桜、また会おう! 今度はゆっくり飯でも食わないか?」
「うん。……元気でね」
「おまえもな、じゃ、またな!」
慌てて駅に向かって駆けていく君を見て、僕は思わず吹き出した。慌てん坊さん。連絡先を聞かないで、どうやって飯食うの? そういうところも少しも変わってない。仕事でそのそそっかしいところを発揮しないようにね。
僕は笑いながら翔の後姿をずっと消えるまで眺めていた。
「桜」
「あ、びっくりした」
僕は思わず振り返る。背の高い、コート姿の男に微笑みかける。
「今来たの?」
「いや、少し前から。桜が爽やかリーマンと話しているのを見てた」
「高校時代の親友。久しぶりに会ってさ」
「桜、すごく嬉しそうだった」
「何? やきもち焼いてくれるの?」
「俺、おまえにはいつも余裕ないもん……」
彼の手が僕の左手を取った。
「……昨夜送った指輪。着けてくれたんだね。ありがとう」
「僕こそ。ありがとう。……愛してる」
「え! 桜からそんなこと言ってくれるなんて、何? クリスマスの奇跡?」
「もう! 早く帰るよ。寒いんだから」
クリスマスの奇跡。そうかもしれない。君に逢えた。そして今、僕の隣には愛する人がいる。僕の人生は君によって変わった。君に逢えなかったら、僕は今も一人。誰も愛せなかったかもしれない。僕が幸せになれたのは、君のおかげなんだよ、翔。
いつか君に逢えたなら。その時、言おうと思ってた。君が好きだったんだよ、って。でも、違う気がした。それは言わないほうがいいと思ったんだ。幸せそうな君。その想いはあの時に置いておいて。僕もそうするから。そしてそれを宝物にして、これからも一生、君のことを忘れないから。ずっと幸せに。それが僕の君への想い。この気持ちをずっと大切に生きていくから。
僕は愛する人の腕にそっと寄り添い、微笑んだ。
翔、君は永遠に僕の好きな、初恋の人──。
終
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