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桜の木の下、待っています①
さて、いきなりだが質問である。
放課後に手紙で呼び出された時、普通何を思い浮かべるだろうか?
『先生がお前の事呼んでたよ』だろうか。
はたまた、『ノート提出忘れてるでしょ? 早く出しなよ』と嫌々ながら言われる場面だろうか。
――否。
放課後の呼び出し、そこは当然『告白』を思い浮かべるだろう。
例えその手紙に書かれていた文字が友達の、それも男の文字だったとしても、『もしや?』と勘繰らせるのが思春期男子として当然の反応である。
しかも、呼び出し場所は桜の木の下。
告白の定番、そこで告白されオーケーされた者らは卒業しても付き合い続け、幸せな結婚を迎えると言う。
まさしくテンプレ、今日俺はあいつから告白されるのだ。
そう確信し、俺は校庭にある桜並木へと向かった。
校庭には春を代表する桜が満を持して大量の花を咲かせていた。
その中に一本、他と明らかに違う木がある。
幹が太く、その分伸び伸びと自由に伸びた枝にピンクの花が咲き乱れる。
周りの木を何本分か集めたような迫力、まさに絶景。
告白と言えばそこしかない。
と、何の迷いもなく俺はそこへ向かった。
「李樹 !」
思った通り、先程別れたはずの友、爽良 の姿がそこにはあった。
常に『恥ずかしいから』という理由で前髪により瞳が隠されており、暗い印象を思わせる。
だがその実性格は割と明るく……いや、はっきり言おう。こいつは馬鹿だ。
明るく馬鹿でその見た目でありながら人に好かれやすい、そんな奴だ。
「お、オレ……」
そんな奴が俺の目の前で、早速本題に入ろうと俯き拳を握っている。
ああ、分かっているとも。その次に続く言葉は、『ずっと前から好きだった!』、だろ?
こんな場面、何度も遭遇してきたから分かっている。
俺は割とモテるんだ。
信じられないかもしれないが、『その見た目なのにとっつきやすくて可愛い』だそうだ。
ギャップ萌え、良く言われる言葉である。
「お、オレ……オレ!」
全く、早く言ってくれ。分からない振りも大変なんだぞ。
にやつこうと口角が上がりそうになる度に堪える、その繰り返しも中々疲れるんだぜ?
「お、おれ……おお、女に、なりたいんだ!」
「ああ、そうか、女に…………は?」
いやいやいや、待て待て待て。
……は?
今、なんて言った?
女になりたい……だとか、聞こえた気がしたが……。
予想外過ぎて間が空いちまっただろうが、どういう意図で言ってやがる。
「もう一度言ってくれ」
「オレ、女になりたい!」
今度はどもらずに言いやがった、つまりは聞き間違いではなかったらしい。
「……女に、なりたいのか?」
「ああ!」
「……いや待て、確かにお前の身長は低い。髪も長いし後ろ姿だけ見れば女に見えない事も……いや、やっぱり男だわ。それで目が細かったりしたら終わりだぞ」
「目? 目が関係あるのか?」
「おおありだろ」
「お、お前になら、見せても良いぞ」
両手を握り言って来る様子が何とも可愛らしい、たまらん、女に見え……ない! やっぱり、どう考えても女には見えない!
ジェンダーの問題に口は出せない、だが匂わせもせずいきなり言われるとどうしても戸惑っちまう!
告白だと思っていたから尚更だ!
……いや、これも一応告白か?
自身のジェンダーについての告白。
だが、わざわざ呼び出して、それも桜の木の下で言う事か?
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