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桜の木の下、待っています②
「ほら」
「……っ!」
髪を手で分けられ露になった瞳に、俺は思わず言葉を詰まらせた。
(か、かわいい、だと!?)
言葉も出なくなるくらいにかわいい!
これなら問題ねえ、こいつは女になれる!
「目が大きくて、良くからかわれてたから隠してたんだ……やっぱ、変だよな?」
「変なわけねえ、笑ったやつ連れて来いよ。マジ殴りしてやる」
「ハハ、ありがとな」
こいつ、冗談だと思ってやがる。
俺は本気だぜ? 『怒ったら怖い』の異名を持つ男、それが俺だ。
「で、女になりたいんだけど……ダメ、か?」
長い前髪を耳に掛け、露になった大きな瞳が上目遣いで俺を見てきやがる。
そんな目で見てはダメだ。請うような瞳は、人をクラリとさせる魅力がある。
そしてクラリと来た俺の答えは、もちろん決まっていた。
「いけません!」
カッと目を開き、強く言い切る。
ダメかって? ダメに決まってるだろ!
こんな可愛い子が女になってみろ、モテまくって大変だろうが!
今は隠してるから何とかなってるが、それでもその性格からひっそりとこいつを好きな人がいるって事、俺は知ってるからな!!
と、心の中で叫びまくり精神的に息が切れそうになる。
なので一旦落ち着こうと、深呼吸を繰り返した。
肺に入ってくる冷気を伴う新鮮な空気は、俺の頭に上っていた血を徐々に静まらせ、思考を正常に戻す。
いかんいかん、これはこいつの人生だ。その選択を、俺はとやかく言う立場にない――と、いうか。
「なんで俺に、そんな事聞くんだ?」
「え?」
「だって、女になりたけりゃなれば良いだろ。俺の許可が必要か?」
「か、勝手になっていいのか?」
「当然だろ」
「そ、そうか……なって、いいのか」
嬉しそうに爽良の頬が染まる。
そんなに女になりたかったのか。
いや、でもこいつ馬鹿だからな……女のある一部分に惹かれて『女になりたい』とか言ってるだけで、その考えも今だけかもしれん。
ここは俺が、その本気度を見定めなければ。
「こ、これから、よろしくな」
「ん? ああ、よろしく」
もじもじとしながらも、晴れやかな表情で爽良が笑みを浮かべる。
秘密を共有した者同士、俺たちの絆はより深くなっただろう。
愛の告白だと思っていた自分が恥ずかしい。きっと思い悩み、こうして秘密を打ち明けてくれるまで長い時間が必要だったろうに。
「頑張ったな」
その苦労を労い、俺はこいつの頭に手を乗せた。
俺の手に気持ちよさそうに目を細めている姿はまるで猫みたいだ。今まで隠れていた表情が見えるようになって、想像していた顔が露になり、あの時こういう表情をしていたのかという妄想が止まらない。
最初聞かされた時には否定してしまったが、俺は親友として、こいつを支え応援する存在となろう。
どんな姿になっても、俺たちの友情は永遠だ!
――なんて。
これがどんな事態になっているのかも知らずに、自身が抱いている感情が〝友情〟ではなく〝愛情〟である事も無視して、とりあえず今はそう決心したのだった。
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