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女装、するのか?①

「な、なあ……これ、行かないか?」  昼休み終了間際。  ご飯を食べ終えさあ教室へ帰ろうと廊下を歩いていた時、『そうだ』とふと思い付いたようにポケットから出されたのは、街のスーパーの中にある、最近出来たというお化け屋敷の無料チケットだった。 「母さんがもらって、『誰かと行ってきたらいいよ』、って……お、オレ、李樹と行きたくて……」 「お前、怖いものって大丈夫だったか? ホラーものは避けてるって、前言ってたような気がするけど……」 「うぐっ」  変な声を漏らした、って事は、図星だったらしい。 「ああでも、せっかくの無料チケット、無駄にしたくないよな? 分かった、俺で良ければ付き合うぞ」 「ち、ちがう!」  了承したのに何故か否定された。  どこだ? どこに『違う』と必死に否定する要素があった!? 「そ、そんな『もったいないから』とか、『お前が近くに居たから』とかじゃなくて……っ、で、デート! デートがしたいんだ!」 「で、デート……だと!?」  あの恋人という間柄なだけで、友達としている事はそう変わらないのに、甘酸っぱい雰囲気になる!?  互いにドキドキして手汗が気になりつつも手を繋ぎ、最後の締めとしてキスなんかもしたりする!?  ……って、阿保か。  そんな甘酸っぱいデート、した事ねえよ。  あれは漫画の世界の話、現実では楽しく二人で過ごし、それなりにキャッキャうふふし、そういう雰囲気になったら察してキスする、そんなもんだ。  少なくとも俺の今までのデートはそうだった。  まあ、なぜか『義務的で嫌』と振られる理由に加わる事が多かったんだが。  と、そんな俺の話は脇に置き。 「デート、したいのか?」 「あ、ああ」  この、緊張に汗が滲み出ていそうな様子。 ――相当な覚悟を持って話している。  そうだ、こいつは女になりたいのだ。  女として大切に扱われていると実感するデートを、こいつも経験したいのだろう。  俺は秘密を打ち明ける程こいつにとって近い存在、喜ばしい事にデートする相手として俺を選んでくれたのだ。 ――そうなると、もしかして。 「女装、するのか?」 「へっ? じょ、女装!?」 「しないのか?」  女のように大切に扱われ、愛される経験をしたい。  なら実際に女の格好をし、デートするもんだと思ったんだが……違ったか? 「女装……そ、そうだ、こいつはノンケだから、女とじゃないとそういう事は出来ない訳で……見た目だけでもオレが女だったら、オレでも相手をしてくれる訳で……」  何やらぼそぼそと呟くと、「李樹!」と俯いていた顔をパッと上げ、両肩に手を置かれた。

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