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女装、するのか?②

「オレの女装、見たいか?」 「……見たい」 「そうか」  真剣な顔で問われ、真剣な顔で頷いた。  そりゃそうだろ。こいつの素顔を知ってから、思考がその事で一杯にことが多いんだぞ。  女になりたいと聞いて、実際に女になった姿を想像したりもした。  くりくりと大きな瞳が上目遣いに俺を見つめ、伸ばされた手の意図を察し、俺は顔を近づけ――ハっ。  ち、ちがうちがう、俺の邪な考えよ、吹っ飛べ! 「り、李樹はその……どんな女が、好きなんだ?」 「タイプってことか?」 「そうだ」  今後の、男に愛されるような女になるための参考に聞きたい、ってとこか?  っつー事は、俺のタイプってより大衆の男が好みそうなやつがいいよな……。 「やっぱ見た目が大事だろうけど、その点お前はクリアしてるしな……お前の容姿なら胸が小さくてもいけるだろうし……尽くしたら良いんじゃないか?」 「尽くす?」 「そうだ。可愛い子が自分の為に尽くしてくれる、これほど男冥利に尽きる事はないだろ」  爽良が自分の為に尽くしてくれる……考えただけでも涎が出そうだ。  その相手は是非とも俺がしたい。  ……っていや、一人の人へのアプローチで考えちまってたが、違うか。  聞かれているのは大衆に好かれる女、論点がズレちまったな。 「李樹も、尽くされたいのか?」 「俺か? そうだな……尽くすのも好きだけど、尽くされるのも良いよな。なんつーかこう、気持ちをダイレクトに伝えてくれるっていうか……うん、いいな」 「そ、そうか」  あれ? 悩ませちまったか?  俯き顎に手をやる姿に、失言してしまったかと焦る。 「あ、でもこれはあくまで俺の意見だ。好かれたいなら、誠心誠意相手と向き合えば――」 「李樹!」 「な、なんだ?」  顔、近くないか?  こんな近くで、それも見せつけるように前髪を耳に掛け素顔を見せられたりしたら、俺じゃなかったらキスしてもおかしくねえぞ?  俺の理性、保ってくれてよかったな~。 「だ、抱きしめてくれ」 「……え?」 「お前にずっと、そうされたいと思っていたんだ……いやなら、いいけど」 「い、嫌なわけねえよ……いいんだな?」 「……ああ」  既に回された背中に付けられた手の存在を意識し、俺はゴクリと喉を鳴らした。  抱きしめたい衝動を堪えたことなんて、俺にだって数えきれない程あった。  口元だけしか見えないのに、全身で感情を伝えてくるこいつに愛おしい想いが溢れた時。  失敗して自分を責め、泣きそうになっているのを堪え唇を噛みしめていた時。 ――近づき触れて、腕で包んでしまいたい。  そう思う場面なんて、日常に山ほど眠っていた。  だが今まで、必死にその気持ちを堪えてきたのだ。  一度許してしまうと抑えが効かなくなる、そうなるとこいつを困らせちまう。  だから抑えてきたってのに……こいつから振られると、避けようがない。  ああいいんだと、噛みしめるように俺は爽良の背に手を回した。

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