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約束①
(やばいやばいやばいやばい!!)
美術の時間が終わり昼休みに入ると、俺は職員室へと繋がっている渡り廊下を早足で歩きながら、心の中で『やばい』という言葉を繰り返していた。
俺のただならぬ気配に廊下を歩いていた連中は俺を避け、でも俺は気にせず職員室のドアへ手を掛ける。
「な、なんだなんだ!?」
勢いよくドアを開いた俺に職員室にいた先生らの視線が集中する。その中から目当ての人を見つけた俺は、そいつの首根っこを掴んだ。
「おい李樹、離せ!」
「来い」
「痛い痛い! 付いて行くから、離してくれ!」
化学を教えているスラッとした儚げな美人という噂が立っている先生の言葉を無視して猫を捕まえるようにしてそのまま職員室を出た。
先程の比ではないくらいの注目が集まっているが、もちろん俺はそんなのは気にしない。
わーわー喚いているこいつをそのまま連れ出して、体育館に繋がる廊下で手を離す。
「一体どうしたって言うんだ……」
「なあ兄貴、俺やらかしたわ」
「何をしたって言うんだ、というか話なら帰ってからでも良かっただろう?」
「俺、爽良に手を出した」
「え? って、まさか……」
その時、タイミング良く俺のポケットに入れていた携帯が鳴った。
表示されている名前は思った通りで、二人で顔を合わせると意を決して俺は携帯に耳を付ける。
「はい」
『よお、要件は分かってるよな?』
「……いや? 分かんねえな」
『その沈黙が何よりの証拠だ、約束を破りやがって』
電話口の声は黒く、対面していたのなら人を殺せそうな視線をしている事が安易に想像できた。
時間の問題だとは思っていたが、遂に爽良の兄・空牙 にバレてしまったらしい。
遅かったか……と内心焦りながら、俺は「で?」と話を続ける。
「約束を破った時の罰則、決めてなかったよな? 俺はどうしたら良い?」
『開き直りやがって、爽良に二度と近づくな!』
「それは嫌だ、というか無理だ。好きな人と離れる痛みは、空牙にも想像できるだろ?」
『それは……なら今すぐ別れろ、お前に爽良は任せられないからな』
「なにいってんだ、俺らは付き合ってねえぞ?」
『ハ? 爽良はそう言ってたぞ、『李樹と付き合ってる』ってな!』
空牙の忌々し気な声に、どういうことだと首を捻らせる。
爽良の中では俺と付き合ってる事になってるのか?
確かに付き合ってないとしないような事はしているが、それは爽良の『女気分を味わいたい』というのに協力しているだけだしな……。
その感覚をより実感するために、本当に付き合っているつもりでいるのか?
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