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第1話

「お疲れさまでした」アルバイト先のファミレスを出た僕はもらったばかりの給料を握り締め銀行に急いだ。家賃を今日中に振り込まないと今度こそアパートを追い出される。 あれ、彼って確か……。 同じ高校の制服を着た長身の男子生徒がふと目に入った。男らしく凛々しい風貌の彼はどこにいてもよく目立つ。 横断歩道を渡っていた高齢の女性が轍に押し車の車輪が嵌まり抜け出せなくなったみたで、押したり引いたりしているうちにバランスを崩し転倒した。 そのことに気付いた彼が、 「ばあちゃん大丈夫か」 すぐに引き返し高齢の女性に駆け寄った。 「橘、なにやってんだ。赤に変わるから、早く押し車を持ち上げてくれ。ばあちゃん、肩にしっかり掴まってろ」 他人のことに関しては無関心なのか、みな足早に通りすぎていく。 怖い見た目とは違い優しい一面を垣間見て胸がなぜかドキドキした。 「あれま」 彼は大きなリュックサックを背負っているのに高齢女性を軽々と抱き上げた。 「家は近いのか?」 女性が住所を口にした。 「十五分は掛かるな。ばあちゃん、家に行くより医者に行ったほうが早い。一回みてもらったほうがいい。この先に整形外科があったはずだから。橘行くぞ」 なんで名前を知っているのか僕は驚きながら押し車を押しながら彼のあとを追い掛けた。

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