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第33話
「なんでこっちを向いてくれないんだ。親父のことは謝るから、頼むから機嫌を直してくれ」
背中を向けてしまった僕の背後から、彼の声がする。
こんな態度じゃ駄目だと分かっているけれど、恥ずかしくてまともに顔が見られないんだもの。彼の腕が回ってきて、そのまますっぽりと包み込むように抱き締められた。
(ーー!)
首筋に息がかかり、思わず体を強張らせると、
「怖い?」
囁くような声が耳元に落ちてきて、僕はぎゅっと目を瞑ったまま頭を振った。
「怖いとかじゃなくて、はず……恥ずかしくて」
「恥ずかしい?」
「僕だけどきどきしてるから」
耳の奥で心臓の音が響く。
遥琉は落ち着いているのに、自分だけ慣れていないみたいでそれが恥ずかしい。
実際慣れていないんだけど……。
彼は女子にモテモテだし、彼女とか普通にいたんだろうから。僕と違って慣れていると思う。彼が付き合っていた顔も知らない、名前も知らない女子にもやもやして、胸がチクッと痛んだ。
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