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第35話

「中一のときだ。下校途中に何者かに連れ去られたことがあるんだ。信号待ちをしていたときに車から飛び降りて死に物狂いで走って逃げた。気付いたら全く知らないところに立っていて、どうしようかと途方に暮れていたら、ちさとという名前の弟を連れた俺と同い年くらいの子が、どうしたの?って声を掛けてくれた。事情を説明したら、交番まで歩いて連れていってくれた。腹が減っていた俺にその子はふたつしかないおにぎりのうちひとつを分けてくれた。お兄ちゃんの分ないでしょう。お兄ちゃんは大丈夫だよ。お腹空いてないから。あのときの兄弟のやり取りは四年たった今も忘れられない。助けてくれたふたりにもし再会することが出来たら、腹一杯ご飯を食べさせて、綺麗な服を着させてやる、そう誓ったんだ。思い出してくれたか?」 「もしかして、途中で歩けないって駄々をこねた千里をおんぶしてくれたひと?」 おぼろげだったけど、そのときの光景が目に浮かんできた。 「そうだ。ちさとの体は骨と皮だけ。あまりの軽さに衝撃を受けた。ご飯も満足に食べさせてもらえずひもじい想いをしている。俺より何倍も辛い想いをしている子がいるってはじめて知った」 彼と目が合いしばらく見つめ合っていたら、 「邪魔するよ」 蒼生さんが布団のなかに乱入してきた。

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