6 / 6
キスの味ってなんですかー!?〜Side 学斗
担任の先生に呼ばれて学級日誌を取りに行った。その職員室から教室に戻ろうと廊下の壁際をコソコソ歩いてたら、ドンッと誰かにぶつかった。
うわわ…っ、ヤバい。
「あ…、ご、ごめんなさいっ!」
「あれあれ? 棚橋くんじゃない?」
「ダメだよ~、前向いて歩かないと」
う…。コイツ等、陽キャだ…。
どうもこういう、キラキラした奴等は苦手だ。仕方ない、陰キャの性だ。こんな時はジッと押し黙ってやり過ごす。下手に騒ぐと面白がられて、更に誂われるんだ。経験上、よく知ってる。
「えー、だんまり?」
「何か喋ってよ~、お話ししようよ~」
やなこった。絶対喋らないぞっ!
「ねぇ、こっち向いてよ?」
「そうそう。顔見せて」
ほらキタ。そうやって顔を向けた途端笑うんだろ? 陽キャの手口はお見通しだぞ!
「おーい、棚橋くーん」
「もぉ、聞こえてるでしょ?こっち見てよー」
しつこい…。どうせ俺の顔が面白いとか思ってるんだ。どうしてこんな奴らにぶつかっちゃったんだ? 俺のバカっ!
「ねぇ、ちょっと顔見たいだけなんだって」
「そうそう、チラッとでもいいから。ね?」
「……ゎ…笑わない?」
「わっ、笑わないよっ!」
「うんうんっ」
はぁ……。嫌だなぁ。でも、ぶつかっちゃったのは俺だしなぁ…。
チラッと目だけ向けて、陽キャの二人組みを見た。
ぅ…うわ…。なんだこの、キラキラ星人逹…。人種の違いを見せつけられる、陰キャの気持ちなんか理解出来なそう。うぅ…、ミジメ。
「も…、もぅいいでしょっ。ぶつかっちゃってごめんなさい」
「「んん"っ」」
あっ! 今、笑いを堪えたなっ!?
ひどい…。笑わないって言ったのに。嘘つきだっ!
「おい、どうした?」
てっちゃん!
「あ…、山本…」
「い、いや、何でもないよっ? じゃ、じゃあね、棚橋くん」
陽キャが巣に帰っていく。
よかった…。
「おい、まな。お前は何してる?早く教室に戻れ」
「うんっ。ありがと、てっちゃん」
はぁ…、よかった。
てっちゃんが来てくれて助かった。さすが俺の親友だ。小5で転校してきた時から、てっちゃんは俺の味方だ。いつだって助けてくれる。顔は怖いけど、中身は凄くいいヤツなんだ。
大声上げて笑ったりしないし、いつもむっすりしてるけど、怒ってるわけじゃない。てっちゃんはこれが通常運転。それに意外とお喋りなところもある。コミュ力ってやつも結構高い。知らない人にも平気で話しかけるし、話しかけられた相手は何故かみんな笑顔だ。さっきの陽キャもそうだった。
何はともあれ助かった。さっさと教室に戻って、日誌を今日の日直に渡さなくちゃ。
ーーー ダンッ!
「ひゃ…っ!」
突然長い腕が出てきて通せんぼされた。90度の角度でにゅっと葛西の顔が現れる。
「たーなはーしくん」
わぁーーっ!
近い近いっ!近いって!!
「素どーりしよーとしたでしょ」
ずぃっと顔が迫ってきてフッと息を吹きかけられた。ミントの香りが顔面に当たる。
「わっ! 何すんだよ!」
1メートル後ろに飛ぶように逃げた。イケメンの破壊力はハンパないっ。顔がボッと火が着いたみたいに熱くなった。
あのミント臭は着火剤か? ダメだ…。これ以上側にいたら死ぬっ。心不全とか心筋梗塞とか起こす。
クルッと振り向き歩き出そうとしたら、首に長い腕が首に巻き付いた。さっき嗅いだミントの香りが、今度は顔の横で広がった。
あぁ死んだ……。俺死んだわ、これ…。
耳の横から声がして「はい、これあげる」と口の中に、小さいタブレットを2粒放り込まれた。
ブワッと口の中にミントがひろがった。
「…キスの味」
コソッと耳元で破壊の呪文をかけられた。
「ぅ…、うわあぁーーーーーっ!」
叫びながら猛ダッシュで逃げ出した。
後ろからアハハハと破壊の魔王様の笑い声。
キスの味はブラックストロングミント。
口の中がヒリヒリした……。
ともだちにシェアしよう!