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現在
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「で、権力のあるお友達ぃ、一晩泊・め・て♡」
さて、そんな学院を卒業した俺は職に就かずにふらふらしていた。一生すねかじりしようと思っていたんだけど、厳格な父と兄が怒って職を手にするまで敷居をまたぐな!と追い出された。ひどいわ~。
まあ、やる気のない俺は手っ取り早く権力者にお金貸して?と事情と共にお願いした。
すると彼は、三食おやつ付き、寮完備の良い職場があるよ、と言ったのである。
それが、あそこ。
「彼のところに帰りなよ。今日もおいしいご飯作って待ってるんでしょう?あんな良い子はいないから、早く付き合いなよ」
「数年前の言葉を思い出して」
「当事者の君が何で覚えてないの?信じられないんだけど。彼の純粋な恋心を返して」
「違いますけど!?」
と言うかそんなこと言ってた君!?全然覚えてない!
「ユグドは男性恐怖症でしょ!」
そう、そこだ。
呆れ顔で俺にそう言ったのを覚えてないのか!お陰で罪悪感に苛まれながら俺は学院生活を謳歌してましたが!!
そう思ってじとっと彼を見ると、彼ははあっとあのときと同じように、いやそれよりも数倍呆れた顔をする。
「君は人間の屑だから」
一瞬、時が止まる。
「……つまり、俺は人間の屑だからセーフ?」
「うん」
悪友が深く頷く。この男がこんな顔で嘘を言うはずがない。
それに自分でも人間の最底辺である自負はあるので、とても納得してしまう。
だって、学院でも留年を何度もかましてどうにかユグドの代で卒業できためちゃくちゃ問題児野郎だったのだ。二度と来るな!と塩をまかれた。
「そ、そう、人間の屑でよかった。じゃあ俺はこれからおいしいご飯が一生食べられると」
実は、ユグドと過ごす日々はとても充実していて手放すのは大分惜しいと思っていたのだ。
優しいし気が利くし、俺に何かあるとすぐに来てくれるし、それが嬉しくてついつい意地悪しちゃうときもあるが、兎に角とても居心地が良いのだ。
それでも少しの良心があるのでこの悪友に相談した所存だが、男と思われていないのならば何の問題もない。
良かった。ユグドとまだ一緒にいられる。
「……良かったねぇ。早く帰りなよ」
「うん!今日はエビの入ったグラタン作ってくれるから楽しみにしてたんだ!食べ損ねる所だったわ!じゃあね!」
「結婚式には呼んでね。スピーチしてあげる」
「? ああ、うん」
最後に言った言葉はよく分からないが、まあもし結婚するなら彼にスピーチして貰うだろうと思うので適当に返事をする。
そして、家路を急いだ。
ユグドの店が近づいてくるととても良い匂いがしてきた。グラタンの香りだ。
今日も俺が食べたいといったご飯を作ってくれるようだ。嬉しい!
「ただいま!」
下がお店で、上が居住スペースとなっている。裏の扉は家の玄関となっていて、開けると上に続く階段がありそれを駆け上がるとキッチンでご飯を作っているユグドがいた。
「お帰りなさい。ごはんできたよ、シェラ」
「うん、ありがとう!おお、めちゃくちゃ美味しそうじゃん!流石ユグド!」
がばっと彼に抱きつくと彼はびくりと体を震わせて固まった。
しまった。これはアウトだった?
前まではできるだけ近寄らないようにと意識していたが、自分は大丈夫だという油断からつい馴れ馴れしくしてしまった。元々、行動がオーバーなのでついやってしまう。慌てて離れようとしたが、次の瞬間、ユグドの方から俺の背中に腕を回してきた。
「もう、いいの……?」
「え? う、うん。君が大丈夫なら……」
あ、もしかして、気にしてたのかな?俺がぎこちなかったの。それだったら申し訳ないな。
そもそも、俺が忘れてるのが悪かったんだし。まあ、結局思い出してないけどね!
「本当?皆、初めては叶わないって言うからもしかしてって思ってたんだけど」
「う、うん……?」
「一緒になれて嬉しい」
「そ、そう」
大袈裟過ぎない?そんなに俺が遠慮なくなったのが嬉しいの?言っておくけど、俺を雇う のは簡単じゃないよ?それなりに働くけど……。
―――と、ユグドの顔が近づいてそっと唇が触れた。
そしてゆっくりと離れると彼は、ずっと昔から恋い焦がれていた者とようやく結ばれたようなそんな幸せそうな表情を浮かべたのだった。
「一生大事にする」
「あ、あり、がとう……」
いやいや、この絶世の美青年が、俺のような人間の屑をそんな風に思うなんてあり得ないでしょ。
そんなことを思いながらも、どういうわけか俺の心臓は変に鼓動を刻み、頬に熱が集まっていく感覚を覚える。
あ、あれ?
何だろうこれおかしいな。いつもはユグドを見るだけでちょっと緊張するぐらいなのに、今はその比じゃない。
「どうしたの?具合悪い……?」
「い、いや!大丈夫大丈夫!!」
そう言うが、いつも以上に心臓が止まりそうな勢いで脈を打っているので自分の体がいかにおかしな事になっているかよく分かる。
俺はそれを気取られないように振る舞った。
―――そして、俺は数年たって漸くその名前を知るのである。
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