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第66話◇

 今日は生放送の歌番組。  学校に少し行ったあと、夕方からテレビ局の楽屋に入った。  リハーサルも終えて、あとは、出番までは待ち時間。  智さんはいろいろ打ち合わせしてくると言って、楽屋を出て行った。 「蒼紫、ロケ番組見てみようよー」 「ほんとに見んの?」 「当然。見る」  笑いながらオレを見てくる蒼紫の隣に座って、スマホでロケ番組の動画をつけて、テーブルに立てて置いた。 「何でオレ達、急にロケ番組なのかなぁ……」 「まあそれは確かに」 「うう。緊張する」 「普通に話せば、ファンは喜んでくれるって」  そんな風に言う蒼紫に、オレはぶんぶん首を振った。 「ファンだけが見てるならそれでもいいけど、ロケ番組なんて違うじゃん。全然できてないとか、思われたくないし」  眉を寄せながら言うと、蒼紫はクスクス笑いながら、そっとオレの額に指を置いて、こしこし擦る。 「しわ、できるぞ」  ふ、と目を細められて、かぁっと赤くなる。 「……そういうのやめて、はずい……」  うう、とおでこを自分で触って、蒼紫の感触を消しながら。 「ていうか……蒼紫はさ、もともと芸能界目指してたからちょっと違うけど、オレ、テレビの前で普通に話す、とか、まだよく分かんないし」 「――んー。でも、涼は普通に話してるだけで可愛いって、いつも言われてるじゃんか」 「……っっだからそれは、ファンの子たちでしょ」  もー、と言いながら、スマホの音量を少し上げる。 「オレと涼が話してるだけで、尊いらしいからいいんじゃねえの?」 「だから……蒼紫はそれでいいかもだけど」 「なんでオレはいいの」 「見た目だけで、それを叶えてそうだし」  ぶー、と膨れながら言うと、ぷに、と頬をつままれる。 「ていうか、涼、世界一可愛いと思うけど」 「――――……」  ぴた、と動きを止めて、オレはマジマジと蒼紫を見つめてしまう。  ……本気かな? じっと見つめ続けていると、蒼紫は、クスクス笑い出した。 「嘘じゃないよ、本気で言ってる」  すり、と頬を撫でられて、手を離される。 「まあでも、見るか、一応」 「……うん」  やっと見る気になってくれたみたいなので、今度こそちょっと集中。  いつも何気なくロケ番組を見てる時は、ごくごく普通に話してすすんでいくのを、何にも考えずに見ているけれど。  なんだか、自分がやろうと思うと……スムーズに自己紹介、場所の説明と今日のロケの目的を話して、しかも、それを飽きさせないように面白い話もいれて……。  ……ってかなり難しいのではないだろうか。ええーできるー? と眉がまた寄ってるのは分かったけど、そのまま見ていたら、蒼紫が隣で、ふ、と笑った。ん? と振り返ると。 「すげー難しい顔してる」  楽しそうに笑う蒼紫に、すこしときめいてしまいながらも、だって、と言いかけると。 「大丈夫だって。いつも宣伝とかでしゃべってる、あのまま普通の涼でいいって」 「……そう?」 「オレも、フォローちゃんとするから」 「……ほんとに?」 「する。大体、オレが涼に任せっきりで、何も助けないとか、ある訳ないだろ。さっきのは冗談」  ふ、と笑ってくれる、なんだかきらめいて見える蒼紫の瞳に、そっか、とちょっとほっとする。  と、その時、小さなノックとともにドアが開いて、智さんが入ってきた。オレ達が並んで座って見ていたスマホを見て、ああ、と微笑む。 「参考になった?」 「難しいなーって思いました……」  オレの返事に、智さんはクスッと笑って、「まあ大丈夫だと思うよ」と言うと、時計を見てからオレ達に視線を向けた。 「そろそろ準備が出来たら、行こうか」  はい、と返事をして、オレはスマホを止めた。   (2025/8/2)

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