66 / 66
第66話◇
今日は生放送の歌番組。
学校に少し行ったあと、夕方からテレビ局の楽屋に入った。
リハーサルも終えて、あとは、出番までは待ち時間。
智さんはいろいろ打ち合わせしてくると言って、楽屋を出て行った。
「蒼紫、ロケ番組見てみようよー」
「ほんとに見んの?」
「当然。見る」
笑いながらオレを見てくる蒼紫の隣に座って、スマホでロケ番組の動画をつけて、テーブルに立てて置いた。
「何でオレ達、急にロケ番組なのかなぁ……」
「まあそれは確かに」
「うう。緊張する」
「普通に話せば、ファンは喜んでくれるって」
そんな風に言う蒼紫に、オレはぶんぶん首を振った。
「ファンだけが見てるならそれでもいいけど、ロケ番組なんて違うじゃん。全然できてないとか、思われたくないし」
眉を寄せながら言うと、蒼紫はクスクス笑いながら、そっとオレの額に指を置いて、こしこし擦る。
「しわ、できるぞ」
ふ、と目を細められて、かぁっと赤くなる。
「……そういうのやめて、はずい……」
うう、とおでこを自分で触って、蒼紫の感触を消しながら。
「ていうか……蒼紫はさ、もともと芸能界目指してたからちょっと違うけど、オレ、テレビの前で普通に話す、とか、まだよく分かんないし」
「――んー。でも、涼は普通に話してるだけで可愛いって、いつも言われてるじゃんか」
「……っっだからそれは、ファンの子たちでしょ」
もー、と言いながら、スマホの音量を少し上げる。
「オレと涼が話してるだけで、尊いらしいからいいんじゃねえの?」
「だから……蒼紫はそれでいいかもだけど」
「なんでオレはいいの」
「見た目だけで、それを叶えてそうだし」
ぶー、と膨れながら言うと、ぷに、と頬をつままれる。
「ていうか、涼、世界一可愛いと思うけど」
「――――……」
ぴた、と動きを止めて、オレはマジマジと蒼紫を見つめてしまう。
……本気かな? じっと見つめ続けていると、蒼紫は、クスクス笑い出した。
「嘘じゃないよ、本気で言ってる」
すり、と頬を撫でられて、手を離される。
「まあでも、見るか、一応」
「……うん」
やっと見る気になってくれたみたいなので、今度こそちょっと集中。
いつも何気なくロケ番組を見てる時は、ごくごく普通に話してすすんでいくのを、何にも考えずに見ているけれど。
なんだか、自分がやろうと思うと……スムーズに自己紹介、場所の説明と今日のロケの目的を話して、しかも、それを飽きさせないように面白い話もいれて……。
……ってかなり難しいのではないだろうか。ええーできるー? と眉がまた寄ってるのは分かったけど、そのまま見ていたら、蒼紫が隣で、ふ、と笑った。ん? と振り返ると。
「すげー難しい顔してる」
楽しそうに笑う蒼紫に、すこしときめいてしまいながらも、だって、と言いかけると。
「大丈夫だって。いつも宣伝とかでしゃべってる、あのまま普通の涼でいいって」
「……そう?」
「オレも、フォローちゃんとするから」
「……ほんとに?」
「する。大体、オレが涼に任せっきりで、何も助けないとか、ある訳ないだろ。さっきのは冗談」
ふ、と笑ってくれる、なんだかきらめいて見える蒼紫の瞳に、そっか、とちょっとほっとする。
と、その時、小さなノックとともにドアが開いて、智さんが入ってきた。オレ達が並んで座って見ていたスマホを見て、ああ、と微笑む。
「参考になった?」
「難しいなーって思いました……」
オレの返事に、智さんはクスッと笑って、「まあ大丈夫だと思うよ」と言うと、時計を見てからオレ達に視線を向けた。
「そろそろ準備が出来たら、行こうか」
はい、と返事をして、オレはスマホを止めた。
(2025/8/2)
ともだちにシェアしよう!

