6 / 41

第6話 解放

「それにしてもこの首元のはシオンにはあまり似合わないね」  ライオネルは胸元の空いた紫音の首元にある黒い輪を触る。 「これは……簡単に言うと命令を聞かせる為の首輪ですね」 「こっちで言うところの”隷属の首輪”と同じかな? どんな風な仕組みになってるの?」 「命令違反だったり、上官の気分次第で、首側に針が埋まっているので、その針からその罰に相応しい毒だったり麻薬だったり媚薬だったりが出ます」  紫音はあまり反抗的では無かった為、毒を使われる事は殆どなかった。媚薬は多用されたが。 「……うん。なんか色々突っ込みたいけど凄いね。どーして外さないの?」 「外さないのではなく外せないのです。特殊な1対の電子錠で開けないと外せ「”ゴトッ”」……無かったんですけどね」  紫音はライオネルを見る。ライオネルは何処か得意気に”この国1番の宮廷魔道士ですから”と言いながら、ふんふん鼻を鳴らしている。  物心付いた時には既にしていた首輪。何処か”飼われている”と言う思いがしていた首輪がいとも簡単に外せるなんて、何だか拍子抜けして、なんとも言えない解放感があった。 「……私は何をしたら良いですか?」 「何したい?」  質問を質問で返された。そして、”何をしたい”か聞かれたのは里親との対話以来で何だか新鮮だ。  生まれた研究所でも訓練所でも基地でも全て命令されるのが当たり前で紫音の希望なんて聞かれた事はない。  自分が何をしたいか。  残り僅かな寿命で出来る事。  そう、紫音は自分の寿命がそんなに長くない事が分かっている。遺伝子操作で生まれた人間は20歳前後が最盛期でその後から急激に衰えるのだ。酷使しているからか原因は不明だが記録上でも最高年齢が28歳だった。  まして、紫音みたいに何かしらの能力が備わっている場合、20歳を超えることが殆どない。  その人間ではあり得ない能力は寿命を糧に使用出来るのではないかという俗説がある位だ。  テレパスの同僚は16歳で死んだし、超聴覚を持った同僚は戦争で毎日のように使っていたら19歳で死んだ。紫音も今は18歳だが、半年もせず19歳になる。  長くもって1、2年。  急に降ってわいた自由。  特にやりたい事はない。  それであれば、願っては無かったけど助けてくれて、少しの解放感を味合わせてくれたライオネルの為に残りの寿命を使っても良いかなと思った。 「……ライのお役に立ちたいです」 「ん? 別に俺に何かしなくても、自立できるようになるまで捨てないぞ?」 「いえ、特にやる事ないですし、せっかく助けていただいたようなので(?)お側にお仕えしたいと思います」  ライオネルは何故そこで首を傾げる? とちょっと心配になる。隷属の首輪もどきを外した時も反応が薄かったし、闇娼館から助ける時も殺して欲しいと言っていたし。  異世界から来た事は分かっているし、拾った責任は取るつもりだからどんな回答でも自立出来るようにサポートする前提ではあったのだが、言うことを聞かないと捨てられるとでも勘違いしているのだろうかと不安になる。  紫音としては首輪が外れた事も嬉しいと感じていたのだが、全く表情に現れていない為ライオネルには通じなかった。 「……ってシオンは何が出来るんだ?」 「……護衛?」 「……お前魔力ないだろ? (それにそんな華奢な体なら肉壁にしかならないだろう)」 「魔力はないですが、ある程度肉弾戦なら。」 「(やはり肉壁希望か)いや、俺より弱いやつはいらない」 「そうですか。。。」  ライオネルは紫音の見た目から戦争に参加してると言っても性欲処理係としての小姓だと思っていた。出会い頭に見た口での奉仕も随分手慣れているように見えたから余計に。  紫音は紫音で日本では対人戦のエキスパートだったが、この魔法のある世界の住人がどれだけ頑丈なのか等知らない為、自分の技術が通用しない可能性も高いと判断し、強く言えなかった。 「一応IQが218あります」 「”アイキュー”って何だ?」 「……頭の良さですかね。割と頭が良い方だと言われています」 「……うーん。補佐官がいるからなぁ。それにこの国の事とか常識とか知らないだろ?」 「……確かに。。」  ライオネルがIQの意味を知らなければ、頭の良さなど表現のしようがないし、この世界の知識がないのも確かなのだ。 「では、性欲処理……」 「(とても魅力的な提案だが、サポートすると言った手前ここは肯けない)いや、じゃ、取り敢えず話し相手係だな。シオンの世界の事がこちらで活かせるかもしれないし」 「……はい。よろしくお願いします」  こうして、シオンはライオネルの話し相手係になった。

ともだちにシェアしよう!