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第8話 里親
体調が良くなり、魔道士塔に1部屋貰った紫音は途端にやる事が無くなった。
ここに来た頃はヤッてるか寝てるかだったし、日本にいた頃は戦争に出てるかヤッてるかだった。
何をすれば良いか分からないのは里親の元へ預けられた時以来だなと部屋のベッドから窓の外を見ながらぼんやりと思う。
研究所で生まれ、8歳まで研究所の施設で戦う事や暗殺に必要な知識や技術を学んでいた。
8歳ともなると、5人グループで暗殺する事は簡単にできるようになっていた。そんなもうすぐ9歳になると言う時、政権交代が起こり”ドールにも人権を”という名の元、10歳以下の子供達が研究所から優先的に引き取られ里親の元へ行った。
紫音を引き取ったのは元研究員助手の女性だった。
”ドール”が遺伝子を操作され少し丈夫なこと以外は普通の人間である事を助手になってから初めて知ったらしい。そんなドールを人間として育てたいと思い紫音を引き取ったそうだ。
研究所では1日のカリキュラムが決まっていた。里親の元へ行った1日目、さっそく戸惑った。
命令がないから何をすれば良いのか分からないのだ。
何をすれば良いか分からないから、里親の元へ行って
「ほんじつはなにをしますか?」
と聞いたら、逆に
「なにしたい?」
と聞き返され、答えられなかった。
ここから、里親の事はお母さんと呼ぶように言われ、何をやりたいか自分で考える事ができるようになる事を目標にお母さんと一緒に過ごした。
最初は何とも感じなかったが、一緒にご飯を食べたりすると心がぽかぽかしてるように感じたし、銃の分解図ではない、”絵本”という絵付きの物語は面白いと感じるようになった。”絵本”を始め本を読むと閉じていた世界が一気に広がった。
そして、倫理観を学んだ。人は殺してはいけないと法律で禁止されていた。いけない事だと知らなかった。殺された人の家族の本や加害者の本、心理学や脳科学等の本も読んだ。少しずつ、感情というものを知った。
お母さんは質問に答えてくれたし、分からない事は一緒に調べた。一緒に何かをやる事が楽しいという事も知った。いけないことをすれば怒られたし、良い事をらしたら頭を撫でてハグしてくれた。そんな人間らしく過ごしていた日々に3年で終わりが来た。
政権が再び交代したのだ。戦争に好んで参加する者はおらず、苦肉の策として金銭面での優遇措置を行っていたが、結局戦争は負けが濃厚に。元々戦争用に調整されていた”ドール”でなければ、既に対応出来なくなっていたのだ。
そして、再び”ドール”から人権は無くなった。
紫音も速やかに研究所に回収され、3年間を取り戻すが如く、一刻も早く戦場へ行けるよう訓練所へ送られた。
ただ、この3年間里親と過ごした”ドール”達は情緒が育ってしまっていて、反抗する者や心を壊す者が増えたのだ。
それからドールを管理する為だけだった首輪は内部に針と各種毒薬等を入れ調教用の首輪となった。
そして、調教用首輪だけでは不十分として、訓練所卒業試験は里親の暗殺になった。
2年ぶりに会ったお母さんは、自分の運命が分かっていたようだった。なるべく苦しませずに殺ろうと思って近づいた時、
「精一杯生きるのよ」
というのが最後のお母さんの言葉だった。
それ以来、敵を殺しても何も感じなくなった。この時心が少し壊れたのだろう。多分同僚達もそう。何でも言うことを聞く殺人鬼が何人も出来たのだから、政策は見事成功したのだろう。
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