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第14話 執務室

 あのお茶会から、紫音を日中1人にしておくのはライオネルの弱みにもなり得るから危ないし、1人で居たら情操教育も何も出来ないという事で、翌日から昼間の執務室もライオネルについて行くことになった。  どうやらライオネルへの傾倒っぷりから害は無いと判断されたようだ。  “弱みになる位だったらちゃんと消えるから大丈夫なのにな”とは思った紫音だが、ライオネルと一緒にいる時間が増えるので有れば文句はない。  それに“ただ飯食らい“があまり良い顔をされない事も知っていた為、気になっていた。1ヶ月弱の図書室通いの結果、最低限のこの国の歴史や地理、魔法などの情報を取得する事は出来たので、執務でも少しは役に立つのでは無いかと思っていた。  が、執務室に着くなり、簡易応接セットのソファへ案内され、アインとルイスが紅茶と大量の絵本を置くとそれぞれ自分の仕事へ戻って行った。 「……。(完全に子供扱い。まぁ邪魔をするより良いか)」  紫音は絵本を手元に引き寄せて読み始めた。  紫音が大人しく絵本を読み始めたのを見て、ほっとする3人組。  勿論絵本を与えたのは嫌がらせ等ではなく好意だ。  1ヶ月前に文字を1回習って以来文字を習いたいと声をかけられる事が無かった為、文字を覚えるのを諦めたのかと思っていた。  実際王都の識字率は高いが、地方へ行くと庶民の識字率はぐっと下がり、最低限の読み書きしか出来ない者が多く、契約も口約束か魔法契約で行う為、地方では識字率が低くても生活する上で問題がないのだ。  図書室には絵本や図鑑などもある。する事がないからという事もあるだろうが、文句も言わずに毎日通っていた位だから、それなりに楽しめていたのだろうと3人は思っていた。  ……完全に子供扱いである。 ♢♢♢  ーー紫音が執務室で絵本を読む事に誰も違和感を感じなくなった頃。  その日も黙々と作業していたライオネルは、紫音が絵本を読まずに目をつぶっているのを見つけた。  昼寝しているのかと近付くと、パチリと目があった。 「疲れたのか?」  フルフルと首を横に振る紫音 「分からない文字でもあったのか?」  フルフルと首を横に振る紫音 「眠かったのか?」  フルフルと首を横に振る紫音 「ヤバイ、、可愛い」  コテンと首を傾げた紫音にハグをするライオネル。 「そーだな。シオンがこっちに来てから町に一度も出てないな。今日は急用もないから久しぶりにお忍びで城下町へ行くか!」 「またそんな急に決めて……」  ルイスが呆れた声を上げるが、ライオネルは気にしない。 「じゃ、シオンこっちの仕事がある程度片付くまでもうちょっと、本読んでな」  と山積みの絵本から1冊取って紫音に渡すと、ライオネルは執務室机へ戻っていった。  紫音は大人しく先程読み終えた山積みの絵本の2周目を始めた。  ……全て読み終えて内容も暗記してしまったが為に、紫音は目を閉じていたのだが、字がまだあまり読めずに絵本を読むのにも時間がかかるだろうと思い込んでいる大人3人は既に全て読み終えていると言う事に気がつく事は無かった。

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