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第19話 古巣

 ルイスの部屋を後に身一つで王宮の外へ出る。  ルイスに説明したように朝でも良かったが、一刻も早く辛くも幸せでもあったこの場所を出たかった。  それに。 「ネズミさん1匹みっけ」  紫音は音もなく男に近付くと、王宮近くの路地裏にいた柄の悪そうな相手に話しかける。 「もしかして僕に用事じゃない?」  突然話しかけられた男は驚いていたが、紫音が前髪を上げると戸惑いつつも、周りを見回し、誰もいない事が分かるとニヤリと笑い”ついてこい”と言って歩きだした。 ♢♢♢  男に案内された先に居たのは、シオンが元いた闇娼館で当時副支配人をやっていた男だった。  元副支配人は柄の悪い男に無理矢理連れて来られている訳ではなく、紫音が何の枷もなく自ら歩いて来る事に驚いて怪しんでいた。 「俺に何の用だ?」 「用があるのは貴方だと思うけど。まぁ、俺もあるから良いんだけどね。いくつかの条件の元、娼館で雇ってくれないかな?」  元副支配人は驚く。今第三王子の元で身を寄せていた筈だがこれはどうした事かと素早く周りをうかがう。  紫音は一気に妖艶な顔をすると 「あの、激しいSEXが忘れられなくて。偶々あのネズミさんを見つけたからここに来ただけで、別に僕は貴方の所でなくても良いから、条件飲めないなら別の所に行くだけだよ」  と言った。  元副支配人は闇娼館の摘発で築き上げてきた財産の大半を失い、起死回生の為にも数週間と言えど恐ろしい売り上げを叩き出した紫音が、喉から手が出る程欲しかったが、第三王子の所有物がこんな簡単に手に入るとは思っておらず、柄の悪い男に見張らせ、情報を集めている段階だった。  それが、第三王子所有となり贅沢三昧だったであろう紫音が何の拘束もなく自らここに居ることが理解出来ず、何かの罠ではないかと思ったが、確かにごくたまにだが、紫音の言う通り痛い事される事が快感に繋がり普通のSEXでは満足出来なくなる者もいる事を知っていた。  こいつもその口なのだろうか。それなら条件次第だと考えた元副支配人は条件を確認する。 「条件は何だ?」 「1つ目は、絶対このヘアピンは取り上げないこと。2つ目もこの青いリボンを取り上げないこと。この2つは壊すような事をするプレイも禁止。守れなさそうな人を俺にあてがうのもやめてね。3つ目は酷くしてくれること。優しいSEXじゃ何も感じなくなっちゃって。この3つを守れるのなら、どれだけ使っても良いし、どんな価格で売っても構わないよ」 「は? なんだその好条件は……」 「この3つを守るのは意外ときついと思うんだよね。人はやるなと言われるとやりたくなっちゃうでしょう? だから客を選ぶ事にもなっちゃうから、他の条件は付けなかったの。どーかな?」 「……分かった。良いだろう。その条件に当てはまる客しか通さない」 「じゃ、契約成立だね。よろしく」 「ああ」  自分から率先して来てくれるなら敢えて逃げ出す事もないだろうし、長持ちもするだろうと判断した元副支配人は紫音と共に夜の町を進んでいく。  ーーそして、紫音の消息は不明となった。

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