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第35話 交合※

 ーーさらっ、さらっ  髪の毛をすかれている感触に、ゆっくり意識が覚醒しだす。  2日前から、起きていられる時間が極端に減った。吐く息も熱いし、全身が重く、動かすのが辛い。目蓋を開けたいのだが開かない。  俺はもうすぐ逝くのだろう。  やっと人生が終わる事に安堵する。  本当の解放が近付いてる事が分かり自然と笑みがこぼれた。  けど、、、  ライオネルの悲しげな表情を見ると、もうちょっとそばに居たかったとも思うようになった。  これが……“未練”。  死は紫音の唯一の救いだった。  あんなに早く死にたかったのに……  今は少しでも生きている時間を大切にしたいと思うなんて。  人間の心は複雑だなぁと思う。  ーーさらっ、さらっ  俺が誰かに寿命を見届けられる“ドール”になるなんて、何て幸せなんだろう。  戦場以外のベットで穏やかに死ねる“ドール”なんて、あの寿命で死んだと記録された“ドール”以来じゃないだろうか。  意識がまた闇に吸い込まれそうになる。  ーーさらっ、さらっ  そうだ、まだもうちょっと。  ライオネルに感謝を伝えなければ。  紫音は重い目蓋をゆっくり開ける。  目の前には、その綺麗な瞳で紫音をじっと見つめるライオネル。 「起きたか。水飲もうな」  ライオネルはそう言うと、ベット脇に置いてあった水さしからコップに水を入れると、紫音の上半身を抱き抱え、水をゆっくり飲ます。 「ぁ、ありがと」 「どういたしまして……。シオンこんな時にあれだが……ヤリたい」  あんなに拒んでいたSEXをライオネルが真剣な眼差しでヤリたいなんて言うものだから笑いがこみ上げてくる。  死にかけの体だけど“ドール”で良かったなんて思う事は初めてかもしれない。  “ドール”は死ぬまで体が頑丈だ。栄養が足りていなくても、死に近付くだけで痩せる事はないし、たとえ何ヶ月寝たきりであろうと、リハビリなんてせずすぐに動かせる。  栄養が体にまわらなくなっている今、普通の人間であれば今頃ガリガリになっている筈で、そんなガリガリの死にかけを抱かせるなんてトラウマになってしまうだろう。  だけど、そうならない”ドール”の体で良かった。  最近は気を使わせてばっかりだったから、ライオネルの要求が嬉しい。 「うん。ヤろう」  奉仕しようと、重い体を動かし起きようとする。  と、ライオネルが慌てて止める。 「今日は俺がリードするから俺に合わせて? 演技もする必要もないからな」 「うん? 分かった」  ライオネルはそのまま覆い被さり、キスをしてくる。今までの軽い口付けではなく、舌を入れて紫音の舌と絡ませる。  こんな激しいキスは初めてじゃないだろうか。  頭を撫でながら何度も何度も貪るようなキスに擽ったくなる。  溜まった唾液を飲み込むとカッと体が熱くなった。  再び舌を絡ませながら、ライオネルは服を脱ぎ、紫音の服も手早く脱がせるとやっと離れた。 「はぁ、はぁ、はぁ」 「シオン大丈夫か? シオン綺麗だ。愛してるよ」  激しいキスに息も絶え絶えな紫音。ライオネルの言葉に嬉しくなる。 「俺も……」  ライオネルは香油を手に取ると、またキスが再開され、後肛をほぐされる。  あまり人にほぐされる経験がないから少し戸惑うけど、何だかくすぐったくて、でもあったかい。 「シオン……ちょっと早いけど、挿れていいか?」  シオンは“前戯”の概念を知らないので“早い”の意味が分からなかったけど、ただ肯定を返すだけにとどめた。 「うん。ライ1つになろう」  笑顔でライオネルに答える。 「シオン……煽りやがって」  言葉は乱暴だが、ライオネルの目に欲情が灯り出す。  ライオネルはもう一度キスすると、紫音の足を開き後肛にライオネルの陰茎を挿入する。 「う、く、、持ってかれそうだ」  紫音の中にゆっくりライオネルが入ってくる。全部入ると紫音を抱きしめた。  なんだか温かい。 「(これが“1つになる”、“繋がる”と言う事なんだ)」  何度も体験したことある行為の筈なのに、ライオネルとの行為は今までのものとは全く別で、恋人同士が言う“1つになる”という事を本当の意味で実感したのは、これが初めてだった。  暫く、抱きしめた後、ライオネルは動き出した。  キスをしながら優しく動く。 「シオン、好きだ」  キスの合間にくれるそんな言葉が嬉しくて、つい後肛を締め付ける。 「くぅ、う、激しくするぞ」 「うん」  ーーパンッ、パンッ、パンッ  先程までの優しい律動とはうって変わって、動きが激しくなる。  ライオネルの余裕のない表情が、紫音の体でライオネルを感じさせる事が出来てると言っているようで、嬉しい。  ーーパンッ、パンッ、パンッ 「シオン、愛してる、くぅぅ」  胎内で、ライオネルが弾けたのが分かった。 「ぁ、あぁ、、」  熱いものが流れてきて思わず、声が出た。  ライオネルが嬉しそうな顔で紫音を見ている。 「可愛いな、シオン」  そう言うと胎内に入っていたライオネルの陰茎がまた大きくなり、律動を開始しだした。  あれ今出したばかりじゃなかったっけ?  ーーパンッ、パンッ、パンッ、パンッ 「ぁ、ぁ、ぁん」  ライオネルが出入りする。抜き差しのたびに何だか背筋がゾクゾクして体が熱く、自然と声がでる。  これが“快感”? ”気持ちいい“ということ? 「可愛いシオン。気持ちいのか?」 「ぁ、体が熱くて、ぞくぞくするの。これが気持ちい?」  ーーパンッ、パンッ、パンッ 「ぅ、そうだな。シオンは、私で、感じてくれてる、のかな」 「ぁ、ぁん、気持ちいい、ライ、気持ちいよ」  そうかこれが気持ちいんだ。自覚したら声が抑えられなくなった。  ーーパンッ、パンッ、パンッ 「う、ぁ、シオン、あいしてる」 「ぁ、ぁぁ、ぁん、ライ、あいしてる」  ライオネルがギュッとキツく紫音を抱きしめ激しく腰をふる。  ーードピュッ 「くっ」 「ぁぁぁあ、、」  胎内で弾けた熱の塊が熱い。  幸せ。  そう、SEXは苦痛だった。  紫音にとっては我慢の時間だった。  だから恋人になるとSEXをしたがるという事が理解出来なかった。  理解は出来なかったが、そういうものだと思ったし、ライオネルが喜んでくれるのであれば嬉しいから苦痛だとしても問題はなかった。  でもライオネルとのSEXはいつもの苦痛とは全く別だった。  こんなにも幸せを感じられる行為だと初めて知ったのだ。  ライオネルと過ごした時間、色々な事を知った。  悲しい、辛い事も知った。  でも、幸せも知った。  自分ばかりがこんなに幸せで良いんだろうか。  自分が居なくなることで、お母さんがいなくなった後の自分と同じ思いをさせてしまう事に今更気がついた。 「シオン、愛してる、愛してるんだ。一緒に生きよう」 「ぅん、ちょっと、やす、む、ね……」  目蓋が重くなる。でも、最後までライオネルを見ていたい。 「あぁ。まだ満足してないから、やるけどシオンは寝てな」  冗談っぽく言うライオネル。でもその瞳は悲しみに満ちていた。 「ぅん、、(悲しませてごめんね)だい、す、き」  少しでも喜んでほしくて、幸せで紫音は心からの笑みを浮かべる。 「くっ、、、愛してる、愛してるんだ」  もう、見えないけど快感ではない、嗚咽のようなくぐもった声がライオネルから聞こえた。  ーーパンッ、パンッ、パンッ  何処か遠くの方で音がなっていて、揺さぶられている。でもその感覚もだんだんなくなっていく。  体は限界を迎えていて、次目覚めるかは分からないけど、  ライオネルの幸せを切に願う。  紫音の意識は急速に闇へと飲み込まれた。  ーーそこにはシオンの意識がなくなっても、泣きながら揺さぶるライオネルがいて、はたから見たらライオネルが狂ってしまったのではないかと思うようなただ悲しみに満ちた獣がいた。

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