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第1話 ことのはじまり
1月某日
まだ年が明けて間もない平日、俺、真藤シオンは小さな雑居ビルの一室、「占い処 けいたんの家」にいた。
一面紫色の壁紙には金色の模様が施され、天井からはドリームキャッチャーやブードゥ人形などのお呪いグッズがたくさん吊るされている。
テーブルには定番の水晶玉を中心に、タロットカードや八角形に文字が書かれた紙
がところ狭しと置かれ、インドや中東の国々を連想させるBGMが静かに流れていた。
オリエンタルな雰囲気、とはまさにこういうことか。
部屋に入ると、占い師に「はじめまして、どうぞお座り下さい」と促される。
『けいたん』と呼ばれる猫背な占い師は、黒っぽい紫の和装で、口元をフェイスベールで隠していた。おまけに羽織についたフードを被っており、こちらからはあまりよく表情が見えない。
が、
宝石みたいな緑の瞳がキラキラと輝いてて、思わず
「すっごく綺麗…」
と呟いてしまった。
「あ、すみません!!失礼なことを」
かーっと沸騰したみたいに顔が熱くなる。
そんな俺の様子を見て
「ふふ、いえいえ、ありがとうございます。嬉しいです」とクスクス笑っていた。
初っぱなからちょっと死にたい。
席に座ると早速、姓名診断に始まり、タロットカードに手相、きゅうせい…何だっけ?
とにかく色んな方法で調べ上げる。
数十分後、
「わかりました。」
占い師はそう言うと、目の前の水晶玉から俺に視線を移す。
「あなたには近々、新しい出会いが訪れます。」
「本当ですか!?」
思わず大きな声が出てしまった。
そんな俺を見て、更に良いことですよ、と言わんばかりに占い師が続ける。
「はい。そして、あなたは12月末に恋愛運がピークになるので、この出会いを大切にしていけば、必ず上手くいきますよ」
心がぱぁっと明るくなる感じがした。
________もう、不毛な恋とおさらば出来るんだ!!!
「ただし、それには条件がありまして…」
「え、条件、ですか……?」
「はい…」
占い師は少し気まずそうに視線を泳がせる。
そんなに難しいことなのだろうか?
例えば、今からエベレストを1日で登るとか?
それとも、何かの大会で優勝するとか?
あるいは、他人を傷つける…とか。
馬鹿な俺にはこのくらいのことしか浮かばない。
でも、正直怖いけど知らずにはいられない。
だって、だって次は必ず成功させなくちゃ…
「な、何でもいいので早く教えて下さい!!」
「…分かりました。じゃあ、落ち着いて聞いてください」
俺が急かすと占い師は何かを決心した表情でもう一度、その綺麗なエメラルドグリーンの瞳をこちらに向けた。
あれ?
なんだか顔が赤いような…
「それはですね、………この1年間、誰とも、えっちしないことです。」
「…は?」
「ですから、真藤さん、あなたが誰かと結ばれたいなら、1年間誰ともsexしないでください。」
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