6 / 10
第6話 修羅場
え、今、何が起こったの…?
見ると、ハジメさんは頬を抑えながら、先ほどの穏やかな雰囲気からは想像もつかないほどの絶望顔で倒れている。
急いで彼に駆け寄り、肩を叩く。
「ハジメさん大丈夫ですか!?」
「大丈………ヒッ」
「え、ちょっと!!?」
ハジメさんは俺を見ると、小さく悲鳴をあげて気絶した。
俺何かした!?!!?
その時、
「よぉ、浮気野郎」
怒りを含んだ若い男の声がした。
振り返ると、モデルさんみたいに凄く身長の高い男の人が腕組みしながら立っている。
え、誰……?
彼はヒールブーツをつかつか鳴らしながらこちらに近づいてくる。
「どうやら、飛び蹴りだけじゃぁ足りねぇようだなぁ」
「か……かほるちゃん………」
いつの間にか目を覚ましたハジメさんが怯えている。
『かほる』と呼ばれたその人は俺のことなんか目もくれず、真っ先にハジメさんの胸ぐらをつかむ。
「イチ、てめぇ、これで浮気何度目だ?あ゛ぁ?」
浮気…?
一瞬何を言っているのか分からなかった。
「ごめんなさ」
「謝罪は聞いてねぇんだよぉ!!!最近連絡も寄越してくれないし!!!アパートに行けば留守になってるしさぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!人が心配してるのにてめえはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!挙げ句まだ未成年の子に手出すとかまじ考えらんねぇんだけどぉぉぉぉぉ!!?!!!!??????」
「し、しおさんは成人してるよ……」
「問答無用だゴラァ!!!!!!!!!!!!」
「ヒィイイイィィイイイ!!!!!!!!!」
ハジメさんは情けない悲鳴を上げたあと、泡を吹いてまた気絶した。
かほるさんは自身の髪を乱しながら
「Sh×t!!!!!!!!!気絶しやがって!!!!!!!!都合の良いやつめ!!!!!」
と言いながら胸ぐらを掴み、「目ぇ覚ませよぉ!!!!!!!」とガンガンふり揺らす。
いきなり修羅場に巻き込まれた俺はというと、何も出来ずにただ眺めていた。
あー、またなのか。
てか、ハジメさん、彼氏いたの…?
チャットじゃフリーですって言ってたじゃん。
SNSだから信憑性低いのは知ってたけどさ。
俺、本気にしてたんだよ??
嘘つき。さいてー。俺もだけど。
彼氏さんだってかわいそうじゃん。
なにがあったか知らないけど、心配して探し回ってたんでしょ?
知らなかったとはいえ、ホテルに入ろうとしたのが申し訳ないよ。
ねえ、なんでいつもこうなの?
本気で恋愛したいだけだよ?
俺が何したって言うの??
支離滅裂な感情と共に、甦るのは過去の、吐き気の催すような記憶。
心の底から黒いものがどっぷりわき出す感覚。
『_____________誰かと幸せになって。』
『_____________そうしなきゃ、アンタも……』
………一番思い出したくない、あの声。
ああ、分かってる。分かってるから。
「あ゛あぁぁぁぁ!!!!!もういいよ!!!!!一発殴らせろ!!!!!!!!」
我に返ると、かほるさんのイライラがピークに達して、ハジメさんにグーで殴りかかろうとしていた。
俺が慌てて止めようとしたとき。
その時。
後ろから延びてきた手が、彼の手首を掴む。
「はい、そこまでです。」
ともだちにシェアしよう!