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第1話
蒸し暑い夏の夜。蚊取り線香の匂いに包まれ、俺はパソコンに向かって写真の加工をしていた。
ミラーレス一眼で取った写真を、売る為に加工していたのだ。
写真は、高校生にしては、良い稼ぎになる。
俺の街は蛍が有名だ。他にも自然がいっぱいで、秋にはコスモスが満開になる。美しい自然を写真に納めることは、高校生でも難しくない。
俺は、扇風機の生ぬるい風を背中に受けて、パソコンとにらめっこしている。どの写真が一番いいのか、選んでいるのだ。
不意に、壁時計から0時を知らせる鐘が鳴った。ボーンボーンと、ゼンマイ式の、古い壁時計から、音が鳴る。
「もう、こんな時間か。そろそろ行くかな?」
深夜でも、時折蝉の鳴き声が聞こえる。今年も蒸し暑い夏になりそうだ。
俺はカメラを手に取り、自転車の鍵を持つ。
「今の時期、蛍がいっぱいいるからな。撮らない手はない」
カメラをバックに入れて、マウテンバイクに跨がる。勢いよくペダルを漕ぐと、生温い風が頬を叩いた。
◆
学校近くの河原に、ホタルが多くいる。ここは、田舎でしか見れない光景がたくさん見れる。
夢中になって写真を撮ると、あっという間に時は過ぎ去る。
気づけば、2百枚以上の写真を撮っていた。俺は、ホタルたちのひと夏の恋物語を、カメラに納めたのだ。
必要な分の素材は手に入った。俺は本日の仕事を切り上げ、自宅に帰ることにする。あまり遅くなって、昼夜逆転もするのも良くない。明日は学校が休みだが、さすがに疲れた。帰って寝よう。
俺は自転車にまたがり、来た道を帰る。真っ暗になった学校前を通って帰るのだが、何か、音が聞こえた。
「なんだ? 水の音?」
暗闇に包まれた校舎の方から、飛び込みの音が聞こえた。どうやら、校舎に隣接する屋外プールの方からのようだ。
こんな夜に誰かいるのか? まさか、夏の幽霊?
まぁ、幽霊なはずはない。多分、不法侵入だ。
俺はどんな奴がいるのか気になったので、カメラにズームレンズを付けて、ナイトモードでプールを覗き見た。
「え?」
俺は一瞬、言葉を失う。
ファインダー越しに見えた人は、人魚のように美しい、「男の娘」だったからだ。
「なんだ? 女? いや、男か?」
プールで泳いでいたのは、全裸の男の娘だった。彼は月明かりに照らされ、水に濡れた髪をかきあげる。
シルクのような肌で目は蒼く、髪は透き通るような銀髪だ。見た感じ、ハーフの男の子のようだ。
「誰だ? あんな綺麗な顔した男の子、うちの学校にいないぞ」
俺は、初めて男が美しいと、その時思った。
彼は、ファンタジーから抜け出してきたような、王子様、いや、天使に見えたからだ。
ズームで少しぼやけていたが、俺は夢中で彼の肢体をカメラに納めた。
彼の、大切な部分も、撮りまくった。
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