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第4話

「写真でも伝わるよ。あなたの真剣さとか、一生懸命さは。もちろんキャラを演じているから、本当のあなたではないんだろうけどね。だけど、何て言うのかな。思い切り好きなことをしているんだって自由な笑顔が、凄く自分の人生に対して誠実だと思った。そこに惹かれたんだ。それに……」  俺が大切にしていた部分を、岩田も感じ取ってくれていた。見てくれる人にも伝わっていたんだと喜びが広がる一方で、褒められるほど体が冷えていく。  果たして俺は本当に誠実だろうか。  演じていたと言えば聞こえはいいが、結局偽っていたのに。  男だとバレた後でも、岩田は同じように好きだと言ってくれるだろうか。学校では見たことのない表情で、優しく笑いかけてくれるだろうか。  何だか急に恐ろしくなって、俺は気付くと岩田の言葉を遮って叫んでいた。 「偽物だから!」  岩田の中にある雷斗を粉々に壊したくなった。  スマホ画面の切り取った俺しか知らないくせに。上っ面しか見ないで解ったような気になって、「本気で好き」だなんて笑わせんな。 「残念だったな。男なんだよ、俺は」  さぁ驚け。現実を知って失望しろ。  ざまあみろと笑ってやりたいのに、なぜか涙が出そうだった。  ふと、授業中の光景が目に浮かび上がる。  広い背中。シュッとしたフェイスライン。日の光に照らされた、硬質そうな黒い髪。斜め後ろの席から、いつも岩田の背中を眺めていた。  どうしていつも……眺めていた? 「知ってたよ」  逃げだしそうな俺の手を取って、岩田が真っ直ぐこちらを見る。 「男だって知ってて言ってる。それから、正体も。お前……星野だろう」  信じられない気持ちで岩田を見返した。  心臓が止まるかと思った。  コイツは俺だと知っていながら「付き合ってくれ」なんて言ったのか。  頭が混乱する。  岩田から目を逸らした先に、時計が見えた。  電車が来るまで、あと二分。 「誤解しないで欲しいんだけど、女の姿をしてるから惚れたわけじゃない。俺が惹かれたのは、教室で見る普段の星野だから。雷斗がお前に似てるなって思ってSNSを追ってるうちに、本人なんじゃないかって気づいて。それで、今日話して星野だって確信した。驚かせてごめん。こんな気持になるの、初めてなんだ。どうしていいかわかんなくて暴走した。……ごめん」  到着を知らせるアナウンスが流れ、ホームに電車が滑り込んでくる。風に巻き上げられた髪を押さえながら、俺は岩田を見上げた。  それってつまり、雷斗ではなく俺自身が好きってこと?  言葉にするのが怖くて、確認できない。 「また絡まれたら面倒だろ。送ろうか?」 「いや、お前帰る方向逆だろ。大丈夫、一人で帰れる」 「そっか。あのさ、返事はゆっくり考えてくれて構わないから。でも俺が真剣に、普段のお前が好きなんだってこと、知っていて欲しかったんだ」  目の前で電車のドアが開く。乗り込む俺を見守る岩田の目は潤んでいた。  何でだろう。離れ難い。  ドアが閉まるまで、あと…… 「前向きに、検討する」  気付くとそんな言葉が口をついて出た。次の瞬間、ドアが閉まる。驚いたような顔をした後、嬉しそうに岩田が笑った。俺は熱くなる頬を両手で押さえる。  さっきから頭の中が混乱していて、思考が一つもまとまらない。だけどもう少し、岩田の側に行きたいと思ってしまった。  電車が動き出す。  明日、どんな顔で岩田に会おう。  あれ、おかしいな。早く会いたいと願ってる。 ――初めての恋に落ちるまで、あと何分だ。

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