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第1話
『徒花さえ愛でる貴男はとても美しかった』
イグニスの生きる軍神と称されるルヴェル・カーディナル大佐はその一言に頭を悩ませていた。
「お、お呼びでしょうか?」
先日、婚約したばかりのイグニス軍のフォンダ少尉は何故か、カーディナルの自室に呼び出されていた。フォンダとしてはカーディナルは大佐の官職で雲の上の存在であり、まず中佐や少佐、大尉や中尉を飛び越えて自室に呼ばれることなどありえない。
それ故、婚約したばかりで退軍するよう言い渡されるのではないかと思い、フォンダは気が気ではなかった。
「ああ、君に二、三、聞きたいことがあってな。まぁ、立ち話だとあれだ。そこのソファにでもかけたまえ」
「し、失礼します!」
カーディナルの勧めるまま、フォンダは速やかにカーディナルの自室にあるソファにかけると、窓際に立ったままのカーディナルの方をチラリと見る。
窓から差し込む陽に照らされたイグニスやカーディナルの名に相応しい、燃えるような緋色の長髪と緋色の眼をしてはいるが、美女のようにきめ細かい肌に整った目鼻。洗練され、優雅にさえ感じられるちょっとした所作や雰囲気。
軍の関係者故に、言葉遣いは堅苦しく、表情も険しいのだが、もし、軍服を着ていなかったら、イグニスの生きる軍神だと信じない者もいるかも知れない。
「まずは祝いの言葉を。此度は婚約したそうで、めでたく思う」
「え……」
カーディナルは「ティケネ副官から君が婚約したと聞いたのだが?」と聞くと、フォンダは慌てて頭を深々と下げる。
「大佐直々のお祝い、このフォンダ、身に余る光栄であります!!」
フォンダは腹から声を出し、感謝の意を述べる。これは何もフォンダのみに限ったことではない。個人差は当然あるが、フォンダより上の階級で、カーディナルより下の階級の者達もおそらくこのような感じだろう。
そんな様子にカーディナルは心底溜息を吐く。というのも、元々、カーディナルとしては上官として恭しく扱われるよりは適度にフランクに接されるのが好みだった。
ただ、イグニスの生きる軍神としての威厳、カリスマ性は結果、カーディナルを遠ざける。
「はぁ、別に今は職務中ではないが……」
話が進まなくなるので、これくらいにするか、とカーディナルは自身を嘲ると、話を進める。
「単刀直入に聞くが、君は私のことをどう思う?」
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