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第2話

「え?」  カーディナルはまた話が進まなくなるのに苛立ち、フォンダを睨みつけるように見る。  とは言え、フォンダとしては恐れ多いやら美しいやらと答えるなどもっての他だった。 「尊敬しております」  どのようなところを、どのくらいか、等、そんなことを聞かれても良いように答えを準備するが、カーディナルは何かを考えているのか、何も言ってこない。  短い沈黙の果て、カーディナルは口を開いた。 「尊敬……か。では、私を、その、婦人のように思うことはあるか?」  カーディナルの斜め上を行く質問に、フォンダは用意していた答えが一気に吹っ飛んでいく。確かに見目が良く、軍の関係者にしては無骨でも屈強でもない。いっそ、軍服をドレスにでも着替えて、窓辺に立っていたら、彼の美しさもあって自身の妻になる予定の女性より余程、映える気がする。  だが、カーディナルにも、妻になる予定の女性にも、口に出して言える訳がない。 「いや、細君となる婦人がある身に言うべきことではないな。実は、先日、ある人物に、その……」  ところどころ、調子の悪いタイプライターのようになるカーディナルの言葉をフォンダはじっと待つ。  待ち続けたフォンダの頭がカーディナルの話を要約するに、実は、先日、カーディナルはある人物に愛の告白をされてしまったという。  今はカーディナルより上の将官や元帥でもそんなことをイグニスの生きる軍神に言ったら、どんなことになるか。そんな命知らずなことを言うなんて、とフォンダは思うが、1人だけ言って退けそうな人物が脳内を掠める。  それは屈強な肉体を持ちながら、肉体とは打って変わり細やかな気配りをし、いつもカーディナルにつき従う彼の副官・ニウェウス・ティネケだ。 「その人物が言うには私は初めて慕った者だと……君は細君とは恋仲だったと聞いてな。その辺りはどうなのかと思ったのだ」  一昔前であれば、この国の婚姻というのは例外なく男女とも家長の勧めに従うものであったが、数年前、国のトップである皇女が一般の男性と結ばれたこともあり、家長も無理には婚姻を結ぶことはせず、当人達も自分達の意思で恋愛を経て婚約する者も増えてきた。  ただ、国内の全員の男女が全てという訳ではなく、とりわけ、軍内ではまだ家長同士で婚約が決められるケースが多く、フォンダは珍しい部類に入る方だった。 「えーと、そうですね……」  一方、カーディナルはこのイグニスの基盤を作り上げた一族と言われており、フォンダが今、目の前に対峙しているルヴェル・カーディナルも生を受けたのと同時に軍人としての道を歩んできた。  貴族や王族と渡り合えるよう、教養や審美眼を身につけるべく色恋を題材にした作品に触れることはあっても、特定の誰かを思ったり、恋愛を楽しんだりするような時は皆無だったのだろう。 「そうか、恋というものをすると、胸が苦しくなるものなのだな」 「ええ、彼女のことしか考えられなくなったり、仕事で何ヶ月も会えなかったりしたら……でも、一緒にいるときはそれだけで幸せになります」  思えば、ティケネと一緒にいるカーディナルはいつもより柔らかで安らかに見えると、誰かが言っていた。 「私と話をしている暇(いとま)があるようでしたら、その方にお会いしてみてはいかがでしょうか?」

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