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第3話
「ここにいたのか?」
カーディナルがイグニス軍の自室から外に出て、数歩、歩くと、小さな礼拝堂とそれに添うよう咲くようなバラが見えてくる。そして、それを眺めている身の丈が大きな男がいた。
「カーディナル様」
ティケネ、とカーディナルは呼びかけると、彼は眺めていたバラを惜しむことなく、カーディナルの方を向き、敬礼をする。
二ウェウス・ティケネ。
若くして、大佐になったカーディナルの副官にして、出身や派閥ではなく、個人の実力を第一とするイグニス軍内でも一際、型破りな経歴を持つ男だった。
「良い……職務ではないのだから」
ティケネに楽にするようにカーディナルは伝えると、礼拝堂の中へと入る。
軍関係者の者が外出届を出さず、礼拝を行えるように建てられた施設だが、出陣や遠征に行かない何でもない日まで礼拝……する程、信仰に篤い者は少なく、この日もカーディナルとティケネ以外はいなかった。
「早いものだな。あの時はサングイソルバの頃だったからもう4年が経つ」
カーディナルとティケネが出会ったのはカーディナルが言うように4年前の夏。
まだカーディナルがイグニスの少佐になったばかりで、ティケネは軍人……ではなく、とある町で肉屋をしていた。
『はぁ……』
当時、武力、知識とも優秀なカーディナルは上官から下官からも嫉妬の的とされていて、地味な嫌がらせを受けていた。
地味な嫌がらせ。この時のそれはとある町に派遣依頼が出ていたのだが、知らされた道順は何年も前に崩落した橋を渡るというもので、カーディナルは依頼が達成されぬまま軍へと帰還するのを期待されているようだった。
すると、そこへやってきたのは同じくある町に肉を卸しに行くティケネだった。
『それなら、俺が使っている裏道がありますよ。ただ……』
ティケネはどう見ても、どこかの貴族のように整った顔立ちをして、華奢な体つきをしたカーディナルには難しい道なのではと思ったが、カーディナルのした返事は『教えて欲しい』というものだった。
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