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序章【先ずはこの出会いをなかったことにしてくれ】
──平凡の終わりは、あまりにも突然やってきた。
俺、子日 文一郎 は普通のサラリーマンだ。
学生時代は『なんとなく』で、大学に進学。そのまま、特に大きななにかを得ることもなく、普通に卒業。
彼女ができたところでそこそこの関係には発展するものの、それだけ。子供の頃から秀でた才能もなく、女子にキャーキャー言われることもない、至って平凡な見た目。
言ってしまえばベスト・オブ・平凡。特徴が無いということがむしろ特徴だと言ってしまえるくらい、無個性。
高校も、大学も、就職先でさえ。選んだ理由は【実家から近いから】。
しかしまぁ、さすがの俺も『このままでは駄目だ』と思い、就職してすぐに一人暮らしなんぞを始めてみた。自分のことだけを考えて生活できるという利点はあるが、今まで自炊したことがなかったから、そういう点では不便である。
……一人暮らしをしたところで、出てくる感想は平凡。どこまでいっても、俺は俺のままだ。
それでも、こんな無個性な俺でもそこそこな家庭を持って、そこそこ幸せになって、子供や孫に迷惑をかけながらも、そこそこ満たされた気持ちで一生を終える、と。……俺は本気でそう思っていたし、そう信じていた。
今日も今日とて会社に出勤し、すれ違う先輩や後輩、そして同僚たちに挨拶をする。決まりきったそれらの行動を繰り返しながら、俺は普段通りに自分のデスクに向かう。
事務所内はざわめいた様子もなく、大きな事件に巻き込まれたりもしていない。そろそろ見慣れた、いつもの風景。あえて特筆するのならば、五月の暖かな日差しが、窓から事務所に差し込んでいるくらい。
いつもの朝。
平凡な言動。
普遍的な日常。
穏やかな一日の始まり。
──の、はずだった。
「──おはよう、子日君! 早速だけど、僕とセックスしよう!」
──嗚呼、神様。
──どうかこの出オチ感満載な先輩の存在を、なかったことにしてください。
序章【先ずはこの出会いをなかったことにしてくれ】 了
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