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 見られてしまったものは、どうしようもない。  だがせめて、今からでも隠すくらいはしたい。  俺は先輩を見上げて、なんとか目を逸らすよう懇願する。……しかし当然、その願いは聞き入れられない。 「いや、無茶言わないでよ。見たいに決まっているよね?」 「やだ、嫌だ……っ! やめて、くださ──ひあ、っ!」  先輩に、抱かれる覚悟はあった。けれど実際、抱かれる準備をしていたわけじゃない。  なのに先輩の指で内側を擦られると、変な声が勝手に出てくる。 「あっ、ゆ、び……もっ、増やさ……っ」 「ごめんね、子日君。それはできないな」 「はっ、あ……っ」  これ以上、ナカを弄られたら。このままでは、どうにかなってしまいそうだ。  それでも先輩は、三本目の指をゆっくりと挿れてくる。 「……っ、キッツ……っ」 「ふっ、あ……っ、や、だ……っ!」  三本の指という圧迫感に、俺は堪らず途切れ途切れな息を吐く。  誰にも弄られたことのないそこは、先輩の想像以上にキツイらしい。 「指が締め付けられているだけなのに、やけに興奮する……ッ」  いつもの優しくて温和な先輩らしくない、ギラギラした目。 「こんな気持ち、初めてだよ。……恋って本当に、頭がおかしくなる……ッ」  余裕なさげな声と、指使い。そんな目で見られて、攻められて……。  ──落ち着けるわけが、ない。  俺は先輩から顔を背けて、情けない声を上げた。 「は、ずか……しい……っ」 「煽っているのかな?」 「そんなんじゃ、なくて……っ!」  三本の指を全て根元まで挿入すると、先輩が俺の唇に自身の唇を重ねる。  俺が先輩に惚れた一番の理由であるはずの、先輩の顔。それが目の前にあって、しかもあろうことか俺の痴態を眺めているのだ。この状況に、俺の体はどんどんと恥ずかしくなってしまう。  それを口にしただけなのに『煽っている』なんて。先輩がいったいどんなミラクル桃色解釈をしたのかが、サッパリ分からなかった。 「もっ、やめ──んあ、っ!」 「あはっ。子日君、可愛い……っ」  根元まで挿れていた指を、先輩はまた動かす。かと思ったらいきなり抜いて、また挿れる。まるで既に、ケツ穴を掘られているような気分だ。  咄嗟のことで体を跳ねさせると、先輩がまた笑う。 「やっ、やめて……っ、あっ、ん、ッ!」 「ピクピクして、本当に可愛いね」 「そんなこと、いわ……な、っ」  何回も指の抜き差しを繰り返されて、どうしていいのか分からない。  羞恥心と、未知の感覚。新しすぎる体験に、頭の中が真っ白になる。  まるで縋るように、俺は先輩へ目を向けた。  相変わらず、先輩はギラギラとした目をしていて……。 「子日君……っ」 「あ、っ」  そこで俺はふと、先輩の熱に気付く。  俺に指を突っ込んで、抜き差しを繰り返して。そんな俺を、先輩は『可愛い』と言っているけれど。  ──本当に先輩は、俺相手に興奮……して、いるらしい。  詰められた距離によって、先輩の熱が布越しに触れる。それだけで、もう身も心も犯されているようで。 「……せ、んぱ……っ。もっ、いいですから……っ」  俺は堪らず、そんな言葉を口にしてしまった。

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