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続 1章【先ずはセックスさせてくれないかな(牛丸視点)】 1
「──子日君。僕はね、人をたくさん殺したよ」
隣に座る子日君は僕を見ず、そして、相槌も打たない。……当然だ。こんな僕に、いったいなにが言えるというのだろう。
「子供も殺しただろうし、女性も殺した。邪魔なものはなんだって、殺したよ」
カチッ、と。無機質な音が、冷酷に響く。
「だからね、僕は死なない。たくさん殺したんだから、僕は死なないんだよ」
静かに呟く僕の言葉に、子日君はただただ黙って、耳を傾けてくれている。
しかし、そこでようやく、子日君が口を開いた。
「なるほど。それが、先輩の宗教観ですか。なかなか興味深いですね」
その声は、先ほど聞こえてきた音と同じくらい冷たくて。
「──それでも俺は、先輩を殺しますけどね」
そう言い、子日君は拳銃の引き金を引き、僕を殺した。
……厳密に言うと。
「──また負けた~っ!」
──僕は【子日君が操作しているゲームのキャラに】銃殺された。
半分に区切られたテレビ画面のうち、僕が操作していたキャラの視点が真っ暗になる。これはつまり、僕が操作するキャラクターが死んだということだ。
……ちなみに場所は、子日君が暮らしているアパートの一室。そこで僕たちは今、テレビゲームをプレイしていた。
「さっきの宗教観は俺が見ていたアニメのセリフですね。ちょっとテンションが上がりました。……ですが先輩って本当に、ゲームがヘタですよね」
「テンションが上がっているわりには変わらず辛辣だね!」
そう言いコントローラーから手を離したのは、僕の隣に座る青年。先月、めでたく交際を始めることができた愛しい男の子、子日文一郎君だ。
僕も彼同様コントローラーから手を離し、隣に視線を向ける。
「僕、あんまりテレビゲームってしたことがないんだよ。……もしかして、子日君はゲーマーだったの?」
「ゲーマーと言うほどではありませんけど、先輩が青春時代を勉学とセックスに割いていた時間と同じくらい、俺は勉強とゲームをしていましたね」
「僕の青春時代はそんなに爛れていないよ!」
子日君はいったい、僕をなんだと思っているのだろう。
すると子日君は戸惑う僕を見て、口角を上げた。
「そんなに得意というわけではありませんが、先輩を完膚なきまでにとことん負かすことができるのは、痛快ですね」
子日君が、笑っている。ニッと上がった口角が、凄く可愛い。……可愛い、けど。
……人相、悪いなぁ。僕はもっとこう、君の優しい笑顔が見たいよ。
子日君は普段から、あまり笑わない。決して【無表情】というわけではないけれど、大きく表情を変えないのだ。
唯一変えるとしたら、僕に対して睨むとか、呆れるとか……。楽しそうに笑った顔を見たことがあるのは、一回だけだ。
ちなみに泣き顔は、二回。僕を襲おうとした時と、僕と付き合う前。……笑顔よりも泣き顔の方を多く見たことがあるなんて、なんだかなぁ。
まるで悪役のような笑みを浮かべている子日君に、僕は向き直る。すると子日君は笑みを消して、眉を寄せた。
「なんですか?」
「子日君……っ」
……僕たちは色々な問題を抱えつつ、それでも互いの存在を求め合ったのだ。その結果として今、僕たちはこうして二人きりの空間にいる。
となれば、僕がしたいことはなかなか限定されてくるだろう。僕は子日君との距離を詰めて、そのまま子日君の頬に手を添えた。
そして、愛らしい子日君にキスをしようと──。
「──ゲームで負けた方が、食器洗いをする。……そういう約束でしたよね、先輩?」
したのだが、子日君に手の甲を強くつねられ、断念。僕はふたつの意味で手を引き、肩を落とした。
……紆余曲折を経てから子日君と交際を始めて、一ヶ月。
その間、僕は子日君とキスはおろか、セックスもできていなかった。
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