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続 1 : 2

 ……あれ、おかしいな?  なんで僕は今、恋人にキスもできずに食器を洗っているのだろう。 「ねぇ、子日君。この状況はなにかがおかしいと思わない?」  カチャカチャと音を立てて食器を洗っていると、子日君が背後から返事をくれる。 「確かにおかしいですね。皿が一枚、テーブルの上に残っています」 「えっ、本当に? ごめんね、持って来てくれるかな?」 「はい。……こちらも洗うのを、よろしくお願いします」 「うん、了解っ。……じゃなくて!」  僕は子日君から食器を受け取った後、素早く子日君を振り返った。 「僕たち恋人同士だよねっ? やっていることが男友達みたいだよっ!」  必死の訴えを受けた子日君はなぜか、眉を寄せている。 「俺、幸三とはこういうことをしたことないですけど」 「えっ、そうなの? もしかして、この部屋に入ったのは僕が初──」 「──幸三には問答無用で食器洗いをさせていますからね」 「──この状況とあまり変わらないよっ!」  と言うか竹虎君、この部屋に入ったことがあるのか。だけどきっと、子日君に雑用を任されているんだろうな。そう、容易に想像できてしまった。……竹虎君、ごめんね。 「この条件で勝負に臨んだのは先輩ですよ。八つ当たりは見苦しいのでやめてください」  それだけ言い、子日君はさっきと同じくテレビの前に戻ってしまう。  食器洗いを終えた僕は、急いで子日君に近付いた。 「僕はね、子日君! ご褒美がほしいよ! ご褒美が!」 「ゲームに負けたので食器洗いは当然でしょう?」 「僕は子日君に甘やかされたいっ!」 「年上のくせになにを言っているんですか」  ──恋人に甘える甘えないという問題に、年齢は関係ないよ!  僕は子日君の隣にストンと正座で座り、眉を寄せている子日君の顔をジッと見つめた。そうすると、子日君は不愉快──もとい、不可解そうな顔をして僕の顔を見つめ返してくれる。  ……うっ、可愛い。今すぐキスをしたいし、可能であればセックスもしたい。  可愛い恋人の顔を見て、僕の口は欲望をポロリとこぼす。 「抱かせて、くれませんか……っ」 「笑えない冗談を言う余裕があるのでしたら、トイレ掃除も頼まれてくれませんかね」 「僕は本気だよ!」 「俺も本気ですけど」  駄目だ! 僕の恋人が手強すぎる!  子日君はテーブルに肘を立てて、そのまま頬杖をつく。 「先輩のその冗談って、もしかして死ぬまで続くんですか? いつか捕まっても知りませんよ?」  ……あっ、あれっ? これって、もしかして? 僕はホワホワと思考を巡らせて、ひとつの答えに辿り着く。  そうか、違うぞ。恋人が手強いわけではないのだ。ようやく僕は、ハッとした。  ──もしかして、僕が【本気で誘っている】と気付かれていないだけなのでは?  ここまで【日頃の行い】という言葉がしっくりくる場面、きっと生まれて初めてだ。僕は膝の上に拳を置き、キリッと真剣な眼差しを子日君に向ける。 「子日君、聴いてほしい。僕は、子日君の裸が見たい」 「えーっと、確か携帯は……」 「通報しようとしないでよっ!」  どうしよう。全然、僕の気持ちが伝わらない。  恋人とセックスをするのって、こんなに難しいことなのかな?

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