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続 1 : 3

 子日君は頬杖をついたまま、わざとらしくため息を吐いた。 「それじゃあ訊きますけど、なんで俺の裸が見たいんですか」 「それを答えたら、見せてくれるの?」 「内容次第では」  ──子日君の貴重なデレだ! またの名を【チャンスタイム】とも言う!  僕は反射的に、パッと笑みを浮かべた。  けれどすぐに眉を寄せて、顎に指を添える。 「そう真っ直ぐ訊かれると、なんて答えたらいいのか……?」 「いち、いち、ぜろ……」 「通報しようとしないでっ!」  携帯を手にした子日君が、不穏な数字を口にした。  僕は慌てて首を横に振り、必死に【子日君が納得してくれる】理由を考える。 「えっと、えーっと……っ! 君の裸を見ると凄く興奮して──」 「いち、いち、きゅう……」 「病人じゃないからっ!」  恋の病には罹っているけれど、頭は正常だよ!  しかし、このままでは駄目だ。子日君が納得してくれるような誘い方が分からない。僕は肩を落として、ポツリと呟く。 「大層な理由なんてないんだよ。ただ、僕が嬉しいだけで……」 「男の裸を見て悦ぶなんて、どうかしてますよ」 「【男の】じゃなくて【子日君の】なんだけど」  子日君は「へぇ」と相槌を打ち、そのまま黙ってしまった。  ……僕が恋愛に対するトラウマを抱く、少し前。僕は数人の女性と、関係を持ったことがある。  デートをして、いい雰囲気になったらホテルに行って、体を繋げて……。あの頃は、キスの延長線上にセックスがあると思っていた。あまり【体を繋げる】という行為に、重要性や希少性を感じていなかったのだ。  だけど、子日君は別。子日君には、なんとなくで手を出したくない。  ましてや、子日君が乗り気ではないのに手を出すなんてこと、絶対にしたくなかった。  ……だけど、男の人をその気にさせる方法なんて、僕は知らない。  ストレートに誘うと、今までの行いが災いして冗談だと思われる。しかし、回りくどいと伝わらない。……あははっ。八方塞がりもここまでくると、一周回って清々しいなぁ。  触れたいし、キスだってしたいし、その先だってしたい。だけど、子日君の気持ちをほんの少しでも無視したくない。僕はこの子が性的な意味でも好きだけど、それ以上に大切だから。  子日君は頬杖をついたまま、反対の手で床をトントンと叩き始める。 「……先輩、俺より先に風呂入りますか?」  するりと、話がすり替わった。ヤッパリ子日君は、手強い。  だけど気を回してくれた子日君の問いを、無下にはしたくなかった。 「僕は子日君の後でいいよ」  週に一度、こうして僕は子日君の部屋に泊まっている。  キスやセックスがなくても、僕は子日君と話せるだけで楽しい。だから不思議と、今の関係性に不満はないのだ。  僕の答えを聴いた子日君は「そうですか」と呟く。  ……そして、不意に。 「──えっ、子日君っ?」  ──子日君は着ていたワイシャツのボタンを、躊躇いなく外し始めた。  ボタンを全て外すと、子日君はそのままワイシャツを脱ぎ捨てる。そしてすぐに、子日君はワイシャツの下に着ていたシャツすらも脱ぎ捨てたではないか。  目の前には、子日君の上半身。僕は突然始まった【世界で一番官能的なストリップショー】から、目が離せなかった。  しかし子日君は、なぜか平然としている。 「どうです?」 「凄く、エッチです……っ」 「そういうのじゃなくて」  いったいどうして、突然僕の前で脱ぎ始めたのだろう。動揺していると、子日君は苛立たし気に後頭部を掻き始めた。 「──『嬉しいですか』って訊いてるんですけど」  子日君はいつだって、僕に素っ気ない。  ……だけど。 「──先輩が嬉しいって思うなら、上半身くらい、いつだって見せてやりますよ。……TPOを弁えていたら、ですけどね」  ──子日君はいつだって、僕に優しいのだ。

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