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続 1 : 4

「──僕の子日君がカッコ可愛すぎてつらいっ!」 「──帰れ」  翌週のこと。  顔を両手で覆いながら、僕は心からの叫びを口にしていた。  そんな僕に対して子日君以上に辛辣な態度を返したのは、僕の同期でもある兎田四葉君だ。  時刻は、終業時間後。僕たちがいるのは、兎田君専用の仮眠室だ。  兎田君は頭をガリガリと掻きながら、眉間の皺をとても深く刻みつつ、僕を振り返った。 「なぁ、ウシ。テメェはなんで、わざわざそんなことを言いに来たんだ? テメェの目には俺様が仕事をしているようには見えてねぇのか? あァッ?」 「だって、こんなことを言えるのは君くらいしかいないから……」 「その評価は犬にでも食わせておけ、この種馬野郎が。あと、俺様と同じ年で『だって』とか言うな。刻むぞ」  うぅ、傷付く。どうして兎田君も子日君も、僕を性欲の塊のように扱うのだろう。  好きな子が、可愛くて仕方がないと思ってしまう。これは仕方のないことじゃないか。 「僕が嬉しいって思うなら裸を見せるって、そんなのキラーワードすぎないっ? いつか誰かに騙されそうで心配だよっ!」 「テメェらの性事情に興味はねぇ。失せろ」 「あぁぁ僕の馬鹿っ! せめて子日君の乳首くらい触れば良かったっ!」 「自分の乳首でも触ってろ。もしくは黙れ」  結局あの日は、僕が動揺のあまり固まってしまい、進展はナシ。自分の不甲斐なさが恥ずかしくて、僕は自己嫌悪に陥る。  ……それにしても、兎田君はシンプルに冷たいなぁ。僕は顔を両手で覆ったまま、くぐもった声で苦言を呈する。 「酷いよ、主任君。僕たち同期じゃないか」 「この世界にはテメェの同期なんて両手両足の指じゃ足りねぇほどいるっつの」 「主任君~っ!」 「──うじうじゴチャゴチャうるせぇなぁ。あんまりうるせぇとケツの穴塞いで、頭に新しいケツの穴を増設するぞ」 「──どういうことっ!」  さすがに兎田君の悪態には耐性があるけれど、ゾッとはするよ!  しかし今思うと、僕の同期が兎田君だったのは神のお導きというものだったのかもしれない。これだけ辛辣な人と関わり続けていたからこそ、子日君の強すぎるツンにも耐えられるのだろう。  ……いや、これは語弊だな。ツンツンしている子日君は、ヤッパリ可愛いからね。  僕は両手の下で、思わず表情を緩めてしまう。  そのことに気付いていないはずの兎田君は、ノートパソコンのキーボードを叩きながら低い声を発する。 「まさかとは思うが、ウシ。テメェは俺様に『ネズミ野郎がド淫乱になる薬を開発しろ』とでも言いたいのか?」 「違う違う違うよ! 絶対にやめて!」 「──興味本位で作っといてやったから、それ持って帰れ」 「──なんでもう作成済みなの!」  兎田君は、なにがなんでも僕を追い出したいらしい。野暮ったく伸びた髪を乱雑に掻いて、兎田君は僕を振り返る。 「テメェの悩みを解決する方法。つまり、俺様が快適に仕事をする方法はひとつ。ネズミ野郎を発情させることだ。……オーケィ?」 「全然オッケーじゃないよっ!」 「繁殖してこい種馬野郎。勿論、ここ以外の場所でな」  そう言う兎田君は、小瓶をポイッと僕に投げた。その瓶の中には、可愛らしい飴玉のようなものが入っている。  兎田君は僕をチラリと見てから、ポツリと呟いた。 「グッドラック」  そんな強姦まがいのことは絶対にしたくないし、するつもりもない。  それなのに僕は、兎田君の妙な優しさに感動してしまいそうだった。 「兎田君……っ」  兎田君が、僕のためにここまでしてくれるなんて……っ! これはどう見ても感動シーンだよっ!  小瓶をギュッと握ると、兎田君はポツリと呟いた。 「──っつぅか、最後にテメェらのヤッた場所が【俺様の仮眠室】っていうのが心底面白くねぇ」 「──もしかして、凄く根に持ってる?」  前言撤回。兎田君は、僕には未来永劫優しくしないだろう。  そしてヤッパリ、この飴はとっても悪いものだ。

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