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続 2 : 6
本気で本当に本心から、兎田主任は先輩を虐めるのが好きらしい。
「よし、気が晴れた。これで気兼ねなく、憂いも心残りもなく眠れるな。……あとは任せたぞ、ネズミ野郎」
「えっ、あっ、ちょっと──」
「俺様は寝る。だから、サッサと散れ」
なんということでしょう。匠の技により、俺は【面倒な状態の先輩を押し付けられる】という嫌がらせを受けました。
まさか先輩を虐めるだけではなく、俺にまで妙な八つ当たりによる嫌がらせをするとは。なんでこの人、こういう方向でも頭の良さを発揮するんだろう? 迷惑だぞ、とても。
などという文句は、受け付けない。兎田主任は欠伸をしながら仮眠室へと入ってしまったのだ。
俺はため息を吐いた後、容赦なく先輩の鳩尾に肘を入れた。
「ぐふっ! い、痛いよ、子日君……っ」
「戻りますよ、ヘンタイ」
「子日君~っ!」
さめざめと泣く先輩を振り返り、俺はもう一度ため息を吐く。
「なにを泣いているんですか。先輩が最低な色情魔なのは今に始まったことじゃないでしょうに」
「それってもしかして慰めのつもりなのっ? うぅぅ、嫌だよ子日君~っ!」
「重い……」
しがみつく先輩を引きずりながらも、俺は事務所へ戻るべく歩き出す。
そこまですると、ようやく先輩も我に返ったのだろう。さすがに大人としての恥や外聞を保有しているらしい先輩は、途中から肩を落としつつも俺から離れ、自力で歩き始めたのだから。
「先輩、あの。その泣き顔、そろそろやめてください。俺が泣かしたと思われるじゃないですか」
「子日君が僕をキズモノにしたのに……」
「ぶっとばすぞ」
「うわんっ!」
……どうしよう。兎田主任と同じにはなりたくないが、先輩を虐めるのはちょっと……たの、しい? かもしれない。
どんよりと落ち込んだ先輩と共に、俺は事務所へ帰還。不本意な争いにより資料はクシャクシャになってしまったが、作業の上では問題ないだろう。
事務所に戻り、俺と先輩はお互いのデスクに戻る。
そうすると一人の職員が、俺に声をかけてきた。
「おかえり、子日。さっき、お前宛てに内線がかかってきてたぞ」
「もしかして、企画課の兎田主任ですか? それならさっき会ってきましたけど?」
「いやいや、違う違う。そうじゃなくて……」
するとまた、別の職員がヒョコッと姿を現す。
「あっ、子日さん。さっき、内線がかかってきていましたよ? 子日さんがどこかに行ったすぐ後にです」
「それこそ、企画課の兎田主任ですか? それならもう──」
「いえいえ、違いますよ」
なんだなんだ。兎田主任からの催促や追加説明じゃないのなら、いったい俺に誰が──。
「──竹虎からの内線だったぞ」
「──『折り返しがほしい』って泣いていましたよ?」
「──あっ、忘れてた」
兎田主任から内線がくる、ひとつ前。
俺は『オレオレ詐欺に遭っていたのだ』ということを、すっかり忘れていた。
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