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続 2 : 9

 思わず俺は、パソコンから顔を上げる。彼方へと飛ばされた幸三を、見るために。  するとなぜか俺の体は、俺の意思に反してグルリと回転。俺は先輩の手によって椅子を回転させられたことにより、先輩を見てしまった。 「あ、あの、先輩? 俺の同期が、なぜか星になりました」  【流星一条】と書いて、ステラと読む。そんな必殺技を使った後のように、幸三は一瞬にして星となった。  ……いや、さすがに星にはなっていないが。俺は目をパチパチと瞬かせながら、反対方向にいる幸三へ指を指す。  だが先輩は、俺の言葉を鮮やかにスルー。そのまま俺の両肩に手を置くと、珍しく真剣なトーンで発言したではないか。 「──子日君の一番は、僕だよね?」  まったくもって訳の分からない言葉を、俺に伝えるために。  ……なんだ、突然? なにを言っているのだ、この第二の赤ちゃんは?  仮に俺が、そう思っていたとして。ここで俺が『勿論ですっ! 俺の一番は先輩ですよっ、大好きですっ! 今すぐ抱いてくださいっ、フォーリンラブ!』などと言ってみろ。事務所内は確実にお祭り騒ぎだぞ? まるで【女神の微笑】と書いてスマイル──いや、このネタはもうやめておこう。  俺は周りに人がいるのなら、いつだって【子日・アイアンマン・文一郎】でいなくてはいけない。俺には俺で、先輩を守るために築き上げた体裁というものがあるのだ。  先輩のように、オープンに思ったことを言っていいような男ではないのだ、俺は。……とは、当然言わず。 「訳の分からないことを言っていないで、星になった幸三を回収して謝ってきてください」  俺は先輩から、ふいっと視線を逸らした。 「ねの──……う、ん。分かった」  先輩はなにかを言いたそうにしていたが、どうやら俺の考えを分かってくれたらしい。  俺の肩から手を放した先輩はすぐに立ち上がり、おかしな方向へと突き飛ばしてしまった幸三の回収へ向かう。 「初めて、椅子に座ったまま吹き飛ばされた……っ」 「おっ。おかえり、お星様」 「せめてこっちを見ろよブン!」  先輩に背もたれを押されながら、幸三が帰還。どうやら、無事なようだ。  俺にギャンと吠えた後、能天気な幸三は背後に立つ先輩を振り返った。 「それにしても、牛丸サンってこういうじゃれ合いする人だったんですね! なんか、ちょっとイメージ変わりました!」 「……そう、だね。僕自身も、驚いているよ」  なんだかよく分からないが、特に不穏な空気にはなっていないようだ。まったく、やれやれだぞ。  そうこうしている間に、俺の作業は終了。後ろに戻ってきた幸三を振り返り、コピー機がある方向を指で指した。 「幸三、入力作業が終わったぞ。印刷するから、確認してくれ」 「分かった! 取りに行ってくる!」 「こら、先輩。幸三がコピー機の方に行くんですから、俺たちの周りをウロウロしないでください」 「うっ。ご、ごめんね……っ」  完全に、託児所じゃないか。気分はベビーシッターだぞ、勘弁してくれ。学園でもないのだから、俺には普通の仕事だけさせてくれよ。  俺は二人の大きな子供に指示を出し、なんとか昼休憩直前までに急な仕事を終わらせた。

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