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続 2 : 15

 胸の鼓動が、先輩へ伝わりますように。  そんな回りくどいことを考えながら、俺は言葉を続ける。 「先輩が相手だと、俺はどうしても意識してしまいます。顎に指が添えられれば胸がザワつきますし、背後から抱き締められると頬に熱が溜まります。鎖骨は……触られないと、分かりませんけど。だけど俺にはこんな相手、世界にたった一人だけなんです」  俺はちゃんと、落ち着いて言葉を伝えられているだろうか? 少しでも動揺がバレていたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。  ……まぁ、死んでなんてやらないけど。先輩みたいな脆い人は、この世界じゃ一人で生きていけないからな。 「ヤキモチ焼きなところも、甘えん坊なところも。……全部可愛いですよ、章二さん」  そう言い、俺は口角を上げた。演技ではなく、本心から。  顔を上げた先輩が、笑う俺を見る。その目は驚いたように丸くなって、やがて、すぐに……。 「僕は文一郎の全てを愛おしく思うけど、特に【笑顔】が好きだな。可愛くて、これだけは絶対に、誰にも渡したくないよ」  ふにゃりと、笑みを浮かべた。  ……まったく、馬鹿馬鹿しい。そっちだって、可愛い顔をして笑っているくせに。 「嫉妬深いのと束縛気味な男は嫌われますよ?」 「いいよ、誰に嫌われたって。文一郎だけは、僕を嫌わないでいてくれるから」 「それはまた、凄い自信ですね」 「だけど、間違ってはいない。……でしょう?」  ジッと見つめられて、思わず笑ってしまった。さっきまで拗ねて額をグリグリと当ててきた男が、なにを言うんだか。  すると、先輩の手が俺の頬を撫でた。 「もう一回、キスしてもいい?」  問い掛けに対し、俺はすぐに目を閉じる。 「いちいち訊かないでくださいよ。俺は、アンタのすることならなんだって許容しちまうんだからさ」 「なにそれ。男前だね?」  笑った拍子に、先輩の吐息がかかった気がした。 「そんなところも、大好きだよ」 「それは、どうも」  笑うと、すぐに口が塞がれて。何度交わしても慣れられそうにない口付けが、先輩から贈られた。  すぐに先輩の手が、するりと動く。そのまま先輩は俺の首からネクタイを解き、そのまま俺を床に押し倒した。 「先輩って、床でするのが好きなんですか?」 「確かに、初めて君を襲おうとしたのも君が暮らすアパートの床だったね」 「先輩との初めてもほとんど床みたいなものでしたし、前回だって床でした」 「余裕のない男だね、僕って」  俺が着ているシャツのボタンを外しながら、先輩は笑う。 「今日も今日とて、僕には余裕がないのだけれど。……そんな僕が嫌いかどうか、訊いてもいい?」  その時点で、もう訊いてるんだっつの。  ……なんて野暮なことは、さすがに言わない。 「言ったでしょう? 俺は、許容しますよ」  代わりにそんな言葉を返してから、俺は先輩の首からネクタイを抜き取った。

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