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続 3 : 2
前に一度、僕は子日君の部屋でゲームをしながらこう言ったことがある。
『子日君って、綺麗な顔をしているよね。魅力的で、素敵で……。ずっと見ていたくなるよ』
そうすると、子日君は眉を寄せてこう返した。
『先輩は自分の顔を見ている方が何十倍も楽しめると思いますけどね』
その後、なぜかいつも以上にゲーム内でボッコボコにされてしまったっけ。……うぅん、あれはなんでだろう? 子日君は自己評価が低いのか、もしくは照れ隠し? どっちにしても、僕の言葉を受け止めて真剣にムキになってくれたのは、嬉しかったかも。
……おっと、脱線してしまったね。
とにもかくにも、子日君は内面的にも外面的にも。僕から【恋人】という特殊な目線を抜いたとしても、かなり高いステータスの保持者なのだ。根拠は、今しがた聞こえた周りからの評価だね。
……僕がまだ、誰からの好意も受け入れなかった時。僕は他人を試して、遠ざけてばかりいた。あえて悪い言い方をするのなら、僕は他人を【拒絶】していたのだ。
そんな僕が、心から『優しい』と思えた相手。彼の魅力に、あんなにも腐っていた僕が気付いたのだ。ならば子日君の魅力に気付く人がいるのは当然だし、言ってしまえば自然の摂理のようなものだろう。
……だけど、僕は狭量だ。周りの人が子日君を褒めるたびに、僕はいつだって『どうしよう』と考えてしまう。未だにガタガタと意味もなく震えているこの両手が、証明だ。
……たとえば、誰かが子日君に告白したとして。そうなった場合、子日君はなんて答えるのだろう?
きっと彼は、誰とは言わないけれど『交際中の人がいる』とハッキリ伝えるはずだ。ハッキリと自分の気持ちを表明し、その上で子日君に想いを寄せてくれた相手と向き合うだろう。
向けられた気持ちを丁寧に受け取り、真摯に断る。彼は、そういう人なのだから。
ドライだけれど、丁寧で。冷たく見えるけれど、ポカポカと温かい。……僕が好きになった男の子は、そういう人なのだ。
「先輩、先輩」
不意に、斜め後ろから声が聞こえた。どうやら、子日君が戻ってきたらしい。
僕はパッと顔を上げて、子日君を振り返る。
「おかえり、子日君。……どうかしたの?」
「手、出してください」
「手を? ……はいっ」
「なんで照れながら左手を差し出すんですか。あと、向きが逆です。手のひらを上に向けてください」
てっきり子日君からの貴重なデレかと思ったら、違ったらしい。僕は渋々、差し出した左手をひっくり返す。
広げた、僕の手。その上に、子日君はポトッと小さな包み──飴玉を置いた。
「『お礼に』と言って、渡されました。ふたつ貰ったので、良ければおひとつどうぞ」
「あっ、ありがとう」
どうやら、さっきの新人ちゃんの問題は解決したようだ。そのお礼に貰った飴を、子日君は僕に分けてくれた。
それにしても、さすが僕の子日君だ。新人ちゃんとは言え、人が一人悩んでいた問題をいとも容易く解決するなんて、本当に凄い。それにこうして、隣にいる僕に差し入れまでくれるなんて……。
「子日君は、いいお嫁さんになるね……っ。ドレスと白無垢、どっちにしようか……っ」
「──ちょっと、誰か。俺が席を外している間に、先輩に結婚情報誌とか読ませましたか? この珍獣に変な餌を与えないでください。なんでも食べて、すぐにセクハラのネタにするんですから」
「──ついに周りを巻き込んで僕をいじるようになったねッ?」
まさか子日君が、自分から進んで周りと交流を持つようになったなんて。もしかして、子日君が最近やたらと周りからいい評価を受けているのって……ぼ、僕のせいなのかなっ?
なんだか本末転倒すぎる状況とドライの極みすぎる恋人に、僕はオロオロと戸惑ってしまった。
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