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続 4 : 2
幸三に、先輩とのキスを見られてしまった。こちらが言い逃れできないほど、ハッキリとした確証を持たれるほど鮮明に、だ。
俺はその件について話し合うため、現在……幸三と共に、社員食堂へと赴いていた。
各々が食べたいものを頼み、料理を受け取る。それから二人掛けのテーブル席へと移動し椅子に座った後……。
「頼む、幸三。このことは、誰にも──先輩にも、言わないでくれ」
俺は幸三にそう言い、頭を下げた。
割り箸をパキッと割った幸三は、目を丸くしている。その理由は【俺が頭を下げたから】なのか、それとも【俺の発言に】なのか。どちらに驚いているのかとか、いっそ両方が理由なのかとか。
だが、そんなことはどうだっていい。俺が知りたいのは、俺の頼みに対する幸三からの返事だけなのだから。
幸三は割った箸を持ったまま、ジッと俺を見ている。
「それは、全然いいけど。……そもそも初めから、ブン以外に言うつもりもなかったし」
「信じてるからな」
「ハハッ。ブンからの素直で真っ直ぐな信頼って、何気に初めてじゃね?」
ヘラヘラと笑いながら、幸三はカツ丼のカツに箸を伸ばす。
「じゃあ、えっと。……ブンと牛丸サンは【そういう関係】って思って、いいんだよな?」
珍しく、幸三は空気を読んでいるようだ。声を潜めて、周りの誰にも聞こえないように配慮してくれている。
見られてしまったのならば、嘘や誤魔化しは得策ではないだろう。俺は静かに、コクリと縦に頷いた。
分かっていたとしても、現実として本人から突きつけられると思うことがあるのだろう。幸三は目を、丸くした。
「……いつから?」
「二ヶ月前、から」
「それって、ブンがすっげぇやつれてた時期だよな?」
あの時。俺が先輩のことで馬鹿みたいにグルグルと悩んでいた時期を、幸三は表面的に見ていた。だから幸三は、どうして俺が落ち込んでいたのかと言う理由を知らない。
ただ、ブンの元気がないと。幸三はそう感じ、俺を案じてくれていたのだ。
幸三としては、欠けていたピースがようやく姿を見せてくれたような感覚だろう。妙にしっくりと、そして納得したような目をしている。
俺がもう一度縦に頷くと、幸三はカツ丼を食べながら「そっか~」と相槌を打った。
「先に言っておくけど、オレとしては偏見とかそういうのはないぜ? 男なんて、棒と穴があればそれでいいもんなっ」
「人の関係をそこまで爛れさせるな」
「ハハハッ! 悪い悪いっ!」
さすが、彼女がコロコロ変わる幸三だ。着眼点が俺とは違う。全く尊敬はできない視点だ。
しかし、それでもさすが幸三だった。普通、身近な人間が同性愛者だったと分かればもう少し喚くなりなんなりすると思うところだが、存外サッパリしているようだ。俺なんかよりも、幸三は【恋愛】に対して視野が広いのだろう。
そこだけなら、素直に感心してもいいかもしれない。幸三からヘイト感情を向けられないと理解した俺は、ほんの少しだけ柔和な気持ちを抱いてしまう。……生憎と、セクハラ発言には耐性が付いているからな。
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