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続 4.5章【先ずは好きだと言わないでくれよな(竹虎視点)】 1
ブンと、解散した後。
オレはポテポテと、それはそれは力のない歩き方をしていただろう。
「すっごく幸せ、か」
ポツリと呟いてしまったのは、今日のホットすぎるトークテーマ。気にすれば気にするほど心がブリザードするのだから、なんて素晴らしいテーマなのだろう。泣けてきそうだ。
向けられた、ブンの笑顔。あんなタイプの笑い方ができる男だったなんて、驚愕だ。子日・アイアンマン・文一郎はどこにいったのだろうか。……ちなみに、そのあだ名を考えたのはオレだということを、ブンは知らない。
ブンにとって牛丸サンは、特別な人。一人で生きていくために生まれたような男だったブンの冷めた心を、優しく溶かした相手。……それが、牛丸サンなのだ。
……素直に、甘えられる相手。そんな相手、オレが今まで付き合ってきた彼女にいただろうか。などというどうでもいい議題を、頭の中にポンと思い浮かべる。
いや、セックスのときには甘やかしてばかりだったっけ。……って、イヤイヤ、そう言う意味の【甘え】じゃなくてさ? もっとこう、気持ちがほっこりするような、そういうやつで……。ポワワ~ンと、熟考すること数秒。
……そう、だよな。思えば、オレはいつも……。
「──いつも、ウソくさい笑顔でヘラヘラしてたっけ、オレ」
お笑い草だ。ブンには『周りに関心を持て』と言って、結局はこの様なのだから。
バカみたいにヘラヘラして、楽しいことだけを追及して。結婚とかそういうガチでマジな話はかわして、刹那主義で生きてきた。それがオレ、竹虎幸三だ。
そんなオレが、誰かに甘えるって? 仕事を助けてもらうとかそういう面じゃなくて、プライベート且つ心の柔らかいところを晒して、包み込んでもらうとか……そんなの、オレらしくもない。
だって、ムリだろ。結婚とかって、すっげぇ好きな子とするんだよな? だったら、彼女とはできないって。
だってオレにとって、彼女っていう存在は【一緒にいて楽しい子】なだけで。……添い遂げたいほどすっげぇ好きとか、よく分かんねぇし。
だからきっと、あっちも同じ。オレと付き合うのは、オレといて楽しいから。代わりは、いくらだっている。
だからオレは、彼女をとっかえひっかえ。彼女も同じで、オレだけではなくそれ以外の男をとっかえひっかえなのだろう。オレが知ってる【恋愛】ってのは、そういうものだ。
だけどブンにとっての牛丸サンは、きっと……代わりなんて、いなくて。
「あぁ、もう! なんでウジウジ悩んでるんだ、オレはっ!」
ブンと牛丸サンが、キスをしていて。まさかブンに好きな人ができるなんて、思っていなかった。
ふと思い出すのは、ブンがやつれていたあの日。あのブンが、あぁなっちまうほど誰かに入れ込んでいたのだ。
オレに頭を下げてきた昨日だって、そう。あのブンが、そこまで誰かのために必死になったんだ。
そして、さっき。牛丸サンのことを想って、ブンが浮かべた笑顔。正直に言うとあれが一番、パンチが効いていて……。
「……んんっ?」
ブンと、牛丸サンの関係。そのことを考えるだけで、どうしてオレは……こんなにもモヤモヤ? するのだろう?
ブンとオレは、違う。牛丸サンとオレだって、違うのだ。それはシゼンのセツリってやつで、どうしようもないほどトーゼンのことで……。
それなのに、どうして。……どうしてオレはこんなにも、モヤモヤとしているのだろうか。
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