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続 6 : 6

 まさかの同期コンビに驚愕と言う名の連続攻撃を受けて、数時間後。 「はい、子日君。お茶をどうぞ」 「ありがとうございます、先輩」  仕事終わりの俺は今、同じく仕事を終えた先輩と一緒にいた。場所は、先輩が暮らすマンションの一室だ。  ちなみに、誘い文句はシンプルなもので。 『いい茶葉を買ったのだけど、良かったら一緒に飲んでみない?』  だった。平和の極みすぎる。精神的疲労が大きすぎた今日という日には、言葉で言い表せないほど最高の癒しだ。和む。  日頃からお茶やら侘び寂びやらに関心があったわけではないが、なるほど、いい茶だ。そんな気がする。詳しくはないが。 「あっ、僕がふーふーしてあげるべきだったね。ごめんね、気付かなくて。……今から、する?」 「ならなんで俺の耳に顔を寄せているんですか、この色情魔」 「今日も僕の子日君がドライだ……」  ズゾゾッと、茶を啜る音。映画やドラマでは時々、縁側で日向ぼっこをしつつお茶を飲むシーンなんかを見るが……なるほど、悪くない。ソファの上だとしても、いいものはいいものだ。 「それにしても、今日は色々ありましたねぇ」 「そうだねぇ。まさか、兎田君と竹虎君がそんなことになっているとはねぇ」 「このままお付き合いにまで発展しちゃったら、同期同士でカップル誕生ですねぇ」 「確かにねぇ。いっそ、ダブルデートでも考案しよっかなぁ?」 「──絶対に嫌です」 「──突然の真顔は怖いよ、子日君」  なぜそんな恥ずかしいことをしなくてはならないのか。理解に苦しむぞ、愚か者め。  それに、デートをする時間があるのなら俺は先輩と二人きりで過ごしたいのだ。分かってくれよ、俺のいじらしい恋心というやつを。  ……とは、絶対に言ってやらないが。そういう俺を好きになってくれたのだから、少々傲慢な俺を許してほしいものだ。  ……だが、本当に驚いた。俺と先輩が付き合っていると知った幸三も、こんな気持ちだったのだろうか。兎田主任は……まぁ、ここまで驚きはしなかっただろうな。  しかしこうして、知人の恋愛事情を知って。今までは『そうか』と一言で済んでいたことに、心を大きく動かしている。これは俺にとって、大きな変化──成長、だ。  俺が人として大きく成長できたのは、隣にいる先輩のおかげなのだが……。 「ん? 僕の顔を見つめて、どうかした?」 「……いえ、なにも」  まぁ、これも言ってはやらないぞ。単純に、気恥ずかしいからだ。  先輩からすると理由もなく冷たくされただけだというのに、やけに嬉しそうだった。「そっかぁ」と相槌を打ち、先輩もズズッとお茶を啜っている。  ……あぁ、平和だ。こんな平和が、ずっと続けばいいのにな。 「あっ、そうだ。子日君」 「はい?」  だが、平和というものは自覚し、感謝をした途端に揺らぐもので。  向けられた、先輩の目。真っ直ぐな瞳を受けてようやく、俺は気付く。  日中があまりにもドタバタしていて、慌ただしくて。だから、頭の片隅に移動しかけていた【懸念】と。 「──アポ、取れたんだ。あの人と会う日、決まったよ」  先輩が、俺を部屋に呼んだ理由に。

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