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オマケ 2【先ずはツンを減らしてくれないかな(牛丸視点)】 1

 ※二人の関係性は 続 4章【先ずは抱き締めさせてくれ】 の後くらいです。  それは、突然のことだった。 「──先輩。俺、今日は【デレ期キャンペーン中】ですので、よろしくお願いいたします」  朝礼が終わると、ほぼ同時。 「──へっ?」  僕の隣に座る恋人が、おかしなことを言い始めたのだ。  ポソッと、隣に座る僕にだけ聞こえるような声量。子日君はそう呟くと、そのまま椅子から立ち上がった。 「俺、ちょっとコーヒー淹れてきます」 「あっ、う、うんっ? 行って、らっしゃい?」  ……えっ? なに、今の? 聞き間違い、とかかな?  だって、ほら。なんて言うか、いつもの子日君じゃないか。朝礼前後にコーヒーを淹れて作業をするのは、間違いなくいつもの──。 「──先輩の分も用意しますね」  ──いつもの子日君じゃないッ!  なにこれっ! えっ、なんなのっ! あの子日君が、僕に優しい! いや、彼は僕の世界で最も優しい男の子だけど! そうじゃなくてこう、や、優しいっ!  今まで、子日君が自発的にコーヒーを淹れてくれたことがあっただろうか? いや、ない! なぜなら子日君が『用意しますか?』と訊く前に、僕が『子日君にコーヒーを用意してもらいたいなぁ』と甘えるからだ!  ……ちなみに。その後の顛末を話すと、さらに空しいよ? だって、いつも子日君は『じゃあ先輩が用意してくださいよ。俺はその方が嬉しいナー』って言うんだから! じゃあ用意するよね、僕がさ。だって恋人に喜んでもらいたいじゃない!  つまり、僕は絶賛、困惑中。僕の分もコーヒーを用意してくれるらしい恋人に返事もできないまま、僕は子日君の背を見送った。 「……えっ?」  ようやく、口を開いたのは。声を出せたのは、子日君がマグカップを手に戻ってきてからだった。 「はい、どうぞ。先輩の分です」 「ど、どうも、ありがとうございます……?」 「いえいえ」  ……くんくんっ。うん、コーヒーの匂いだ、間違いない。では、失礼して……ズズッ。……うん、コーヒーだ。ヤッパリ、間違いなかった。  ……えっ? 子日君が僕に、コーヒーを? 「おいしいですか?」 「えっ! あっ、うっ、うんっ! 今まで飲んだどのコーヒーよりもおいしいよ! 君が僕を想って用意してくれたからかなぁ~? あはは~っ!」  し、しまった! 今のは少し、ナンパで軽い印象を与えてしまったかもしれない! このままでは『誰がいつ、アンタのことを想ったなんて言いましたか? 自惚れは結構ですが、まるで事実のように語らないでください。不快です』と言われてしまう! いや、絶対に言うぞ! この程度の辛辣な態度ならむしろまだ優しいくらいだ、僕の子日君は!  サッと、身構える。子日君からの【辛辣な言葉によるボディーブロー】に耐えるため、僕は完全な防御姿勢を取ったのだが──。 「──えっ。どうして、分かったんですか。俺が、先輩を想ってコーヒーを用意したって。……そんな大きい声で、言わないでください。照れるじゃないですか、馬鹿……」 「──グハッ!」  不意打ち! これは不意打ちすぎるよ!  右ストレートを覚悟していたら、鮮烈なアッパーを繰り出されたような! 同じ【攻撃】でも、想定外であったのならば回避不能!  僕は心に大きくも嬉しいダメージを負い、すぐにデスクへと突っ伏した。

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