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オマケ 3 : 6

 ある程度、三人を落ち着かせた後。 「それじゃあ、俺様はユキミツを送って帰る。ウシ、テメェは送り狼になるんじゃねぇぞ」 「ん? 四葉サン、今『は』って言いました? 牛丸サン『は』って言いましたよね? えっ? じゃあ四葉サンは送りオオカミになるってことッスか? えっ? んん~っ?」 「あばよ、クソ共。ヨイオトシヲー」 「スルーされた挙句なぜか手を握られたーッ! なんでーッ! しかも力強すぎーッ!」 「「良いお年をー」」  悲鳴を上げる幸三と、上機嫌そうな兎田主任を見送って。俺と先輩は、特に意味もなく手を振った。  忘年会は、無事に終了。誰も怪我をすることなく、後は帰るだけだ。 「それでは行きましょうか、先輩」 「うん。……君の部屋に向かいはするけど、酔っているのは僕の方だから、ある意味で送ってもらっているのは僕だよね? つまりこの場合、子日君が送り狼になるのかな?」 「行き先は交番に変更でもいいんですよ、この色情魔」 「あっ、ごめんっ、ごめんなさいっ! あまり早く歩かないで、ちょっと足元が覚束ない状態なんだよ今の僕っ!」  先輩の下品なジョークは、酔っていようと健在だった。だが転ばれても困るし、とりあえずは足並みを合わせよう。  ゆっくりとした歩みのまま、俺は先輩と夜道を歩く。温まった体に、夜風がほどよく気持ち良かった。 「なんだか、思い出すね。初めて君と二人で歩いたのも、飲み会帰りの夜道だった」 「そう言えば、そうですね。俺、先輩のことは事務所内でもかなり避けていましたし」 「あははっ、確かに。通路を一緒に歩いたこともなかったよね」  思い出話には、花が咲くもので。先輩の顔には、パッと明るい笑顔が咲いていた。 「ねぇ、子日君。さっきは兎田君に邪魔をされちゃって、ちゃんと言えなかったけど。……本当にこの一年、沢山のことがあったよ」  不意に。 「君と出会って、嬉しいこともあって、悲しいこともあって。つらいこともあったし、擦れ違いもあった。濃厚で、濃密で……本当に、目まぐるしい一年だった」  先輩の手が、俺の手に触れた。 「だけどなにを思い返しても、いつもどの思い出にも、僕のそばには子日君がいるんだ。……だから、改めてもう一度。君に、言わせてほしいな」  そのまま先輩は俺の手を掴み、そっと口元へと引き……。 「──今年一年、本当にお世話になりました。君と出会えて、僕は幸せだよ。……これからもよろしくね、文一郎」  先輩の唇が、そっと。俺の指に、触れた。  すぐに手は放され、代わりに笑みが向けられる。その笑顔を見ると、俺の胸はなぜかキュッと締め付けられ。頬には、熱が溜まっていった。  こんな感じの言葉を、つい最近。俺は先輩から、贈られたばかりだった。 「……あの、先輩」 「うん。なぁに?」 「前に、先輩は……事務所の通路で、俺に色々、言ったじゃないですか。だから、というわけではないのですが……」  クリスマスイブの、仕事終わり。事務所の通路で、先輩は俺に言ったのだ。  感謝と、そして……。 「──こちらこそ、ありがとうございました。そしてこれからも、よろしくお願いします。……大好き、です」  俺がずっと、先輩から欲しくて欲しくて仕方なかった言葉。  好きだ、と。先輩が、俺に言ってくれたから。  だから俺は、笑みを浮かべた。この人はどうやら、俺の笑顔が好きらしいからな。 「文一郎……っ」  先輩の顔が、赤くなった気がする。酒のおかげでもう随分と赤いから、気のせいかもしれないがな。  ……さて、と。甘ったるい空気は、ここまで。こんなのは、俺らしくないからな。 「──それでは、兎田主任が言っていた『不特定多数の人を愛したい』発言について。俺の部屋でじっくりとお聞かせ願いますね、章二さん?」 「──うわぁんっ! 顔がっ! 笑顔だけど怖いよっ、文一郎~っ!」  年末だろうと、年を越そうと。これから何年、この人と時を重ねても。  俺は変わらないし、この人も変わらないし。……俺は変わるし、この人も変わるだろう。  だから今は、今の俺たちらしい付き合い方で。……なんて。なんだかヤッパリ、これも俺らしくないかもな。 【先ずは好きだと聴いてくれ】 了

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