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季節の挨拶
「お手紙とは、風情がありますね」
封筒がポストに落ちると同時に声がした。
郵便局の入口を向くと、出てくるところだった人と目が合った。
「……!」
声が出なかった。
こんな人、近所にいた?
背が高くてすらっとした、メガネをかけた男の人。二十代後半か三十歳くらい? 色白で、長いつやつやの髪を後ろで結んでて、七月後半なのに服は踝 まで覆うデニムパンツと丈の長い紫のカーディガン。でも暑そうな感じは全然なくて、むしろこっちが震えそうなくらい涼しげで。
なんでこんな片田舎にいるのか怖くなるくらい。
かっこいい、って言うか、綺麗……?
手紙を読まれたわけでもないのに、なんだか恥ずかしい。
「中学校の生徒の方ですか?」
また彼が話した。声はなめらかな低音で、聞くとぞくぞくする。
「え、なんで、あ、そうか、制服……」
「もう放課後ですね?」
「あ、はい、そうですけど」
彼は微笑み、僕に近づいた。
「えっと……」
言葉はぎこちない。ドキドキして上手く息ができないんだ。
すると、彼は前かがみになって言った。
「道をお尋ねしたいのです」
「……道?」
「はい。便箋を探しているのですが、どこで買えるのかわからないのです。先日越してきたばかりで」
「便箋?」
「ええ。お手紙を書く君ならご存知かと思いまして」
「ん、」
気まずい。
罰ゲームで書いただけです……なんて言えない。
綺麗な顔が近づいた。
「それとも、迷惑でしょうか?」
「……」
この人をがっかりさせるのは嫌だと思った。文房具屋さんの場所だって知ってる。
どうせ家に帰っても一人だし、暇だし。
「いいです、よ」
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