2 / 6

季節の挨拶

「お手紙とは、風情がありますね」  封筒がポストに落ちると同時に声がした。  郵便局の入口を向くと、出てくるところだった人と目が合った。 「……!」  声が出なかった。  こんな人、近所にいた?  背が高くてすらっとした、メガネをかけた男の人。二十代後半か三十歳くらい? 色白で、長いつやつやの髪を後ろで結んでて、七月後半なのに服は(くるぶし)まで覆うデニムパンツと丈の長い紫のカーディガン。でも暑そうな感じは全然なくて、むしろこっちが震えそうなくらい涼しげで。  なんでこんな片田舎にいるのか怖くなるくらい。  かっこいい、って言うか、綺麗……?  手紙を読まれたわけでもないのに、なんだか恥ずかしい。 「中学校の生徒の方ですか?」  また彼が話した。声はなめらかな低音で、聞くとぞくぞくする。 「え、なんで、あ、そうか、制服……」 「もう放課後ですね?」 「あ、はい、そうですけど」  彼は微笑み、僕に近づいた。 「えっと……」  言葉はぎこちない。ドキドキして上手く息ができないんだ。  すると、彼は前かがみになって言った。 「道をお尋ねしたいのです」 「……道?」 「はい。便箋を探しているのですが、どこで買えるのかわからないのです。先日越してきたばかりで」 「便箋?」 「ええ。お手紙を書く君ならご存知かと思いまして」 「ん、」  気まずい。  罰ゲームで書いただけです……なんて言えない。  綺麗な顔が近づいた。 「それとも、迷惑でしょうか?」 「……」  この人をがっかりさせるのは嫌だと思った。文房具屋さんの場所だって知ってる。  どうせ家に帰っても一人だし、暇だし。 「いいです、よ」

ともだちにシェアしよう!