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初恋は実らない
「あの映画最高でしたよね-」
「うんうん、途中はらはらしたけど、最後は初恋相手とちゃんと結ばれるの。やっぱりいいよね~」
「ね~」と揃って首をかしげているのは、二年生の書記たちだ。生徒会長、前島蛍は真っ直ぐな前髪と眼鏡の下から一瞥して、生徒会室をあとにした。職員室まで書類を持って行って欲しかったのだが、今話に割って入って不興を買うくらいなら、自分で行ったほうが早い。
ドアを閉めながら心の中でひとりごちる。
初恋は実らない。
ソースはおれ。
書類を職員室に届けると、スマホにメッセージが入った。母からだ。
『今日は何時ごろになりそう? 学校を出るとき連絡してね』
ため息と共にスマホをしまったとき、背後から声をかけられた。
「ほたるん」
眉間に深い皺が刻まれる。
声の主は、榊篤史。身につけた学校指定のクリーム色のベストはまだ真新しい。
蛍は苦々しく応じる。
「……その呼び名はよせ」
初恋は実らない。
彼こそが、蛍がそう思うに至った元凶だ。
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