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▼サーチ系男子の『Q and A』
「入るぞー」
いつもの要領で、ノックの代わりに声を掛けながらノブを捻る。小中高と腐れ縁が続いていると、自室へのドアは、もはや自動ドアと大差ない。
「おー臣 、買い出しさんきゅーっ」
「……普通に元気じゃん」
白いスウェット姿の背中にぼそりと呟き、ローテーブルとベッドの間に腰を下ろす。風邪でくたばっているはずのアホは、布団を足元に追いやり、スマホを片手に寝転んでいた。
「あれ? 鍵開いてた?」
「丁度おばさんに会った。今から出勤だって」
「あーそうそう、急に夜勤になったとかで」
……そうそう? そんだけか? おばさんが出ていったのは10分前とかだぞ。
こちとら買ってきたモンを冷蔵庫に入れ、直後、降り出した雨に気づいて洗濯物を取り込み、今やっとココだぞ?
何を期待しても無駄だと知りつつ、自嘲ぎみにため息を吐いてベッドへ寄りかかる。
「おばさんから伝言。飯の準備するヒマなかったから、姉ちゃんが帰ってきたら何か頼めって」
「おー」
生返事の傍らで、いったい何に夢中になっているのか。それとなく振り返ってみるが、栗色の猫っ毛が邪魔でスマホ画面が見えない。
「……それから、病人ぶって雅臣 くんをこき使うなってさ」
「それは臣のウソだな」
確かにいまのは、気を引きたいだけの嘘だ。だからこそ、こちらに目もくれず断言されるのは面白くない。
「あと、熱がぶり返したら座薬もあるからって」
重心を少しだけずらし、うつ伏せ状態のアホを眺めながらベッドへ頬杖をつく。
「お前が大人しく寝てなかったら、ブチ込めって言われた」
「座薬――ってアレだよな?」
――――お。
やっとこっち見た。
「あれだな、ケツに突っ込むやつ」
「いいぃぃ。ムリムリッ! なっ!」
同意を求められ、テキトーな相槌で返す。
拒否しているわりには、キャッキャと楽しそうに転がりやがって。こいつ病人じゃねぇのか?
「んで熱は? 下がったの?」
「爆睡したら下がってた! これはまじ!」
キリッと顎を引いて訴えてくるあたり、今度の嘘は効果てきめんだったのだろう。
小さいころは年中Tシャツ短パンだったようなヤツが、風邪を理由に初めて学校を休んだ。それは天変地異に等しく、要するに、本気で心配した俺の身にもなれっつーの。
「頼まれてたやつ、ぜんぶ冷蔵庫に入れてきたけど何か取ってくる?」
「……なにそれ。臣こそ熱あるんじゃない? 大丈夫?」
ケラケラと笑う顔を睨み返す。だがすぐに身を翻されたせいで、俺はまた、普段よりヘタっている後頭部を見つめる羽目になった。
ちょっと優しくしただけで異常なのかよ……。
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