1 / 4

▼サーチ系男子の『Q and A』

「入るぞー」 いつもの要領で、ノックの代わりに声を掛けながらノブを捻る。小中高と腐れ縁が続いていると、自室へのドアは、もはや自動ドアと大差ない。 「おー(オミ)、買い出しさんきゅーっ」 「……普通に元気じゃん」 白いスウェット姿の背中にぼそりと呟き、ローテーブルとベッドの間に腰を下ろす。風邪でくたばっているはずのアホは、布団を足元に追いやり、スマホを片手に寝転んでいた。 「あれ? 鍵開いてた?」 「丁度おばさんに会った。今から出勤だって」 「あーそうそう、急に夜勤になったとかで」 ……そうそう? そんだけか? おばさんが出ていったのは10分前とかだぞ。 こちとら買ってきたモンを冷蔵庫に入れ、直後、降り出した雨に気づいて洗濯物を取り込み、今やっとココだぞ? 何を期待しても無駄だと知りつつ、自嘲ぎみにため息を吐いてベッドへ寄りかかる。 「おばさんから伝言。飯の準備するヒマなかったから、姉ちゃんが帰ってきたら何か頼めって」 「おー」 生返事の傍らで、いったい何に夢中になっているのか。それとなく振り返ってみるが、栗色の猫っ毛が邪魔でスマホ画面が見えない。 「……それから、病人ぶって雅臣(マサオミ)くんをこき使うなってさ」 「それは臣のウソだな」 確かにいまのは、気を引きたいだけの嘘だ。だからこそ、こちらに目もくれず断言されるのは面白くない。 「あと、熱がぶり返したら座薬もあるからって」 重心を少しだけずらし、うつ伏せ状態のアホを眺めながらベッドへ頬杖をつく。 「お前が大人しく寝てなかったら、ブチ込めって言われた」 「座薬――ってアレだよな?」 ――――お。 やっとこっち見た。 「あれだな、ケツに突っ込むやつ」 「いいぃぃ。ムリムリッ! なっ!」 同意を求められ、テキトーな相槌で返す。 拒否しているわりには、キャッキャと楽しそうに転がりやがって。こいつ病人じゃねぇのか? 「んで熱は? 下がったの?」 「爆睡したら下がってた! これはまじ!」 キリッと顎を引いて訴えてくるあたり、今度の嘘は効果てきめんだったのだろう。 小さいころは年中Tシャツ短パンだったようなヤツが、風邪を理由に初めて学校を休んだ。それは天変地異に等しく、要するに、本気で心配した俺の身にもなれっつーの。 「頼まれてたやつ、ぜんぶ冷蔵庫に入れてきたけど何か取ってくる?」 「……なにそれ。臣こそ熱あるんじゃない? 大丈夫?」 ケラケラと笑う顔を睨み返す。だがすぐに身を翻されたせいで、俺はまた、普段よりヘタっている後頭部を見つめる羽目になった。 ちょっと優しくしただけで異常なのかよ……。

ともだちにシェアしよう!