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既にスマホに戻ってしまったが、元気ならまあいい。ただその、指をパチンと鳴らすような仕草だけは気になる。
「なぁ、さっきから何してんの」
「んー……勉強?」
――――こいつが勉強?
四六時中サッカーボール追いかけてるようなヤツなのに、んなアホな。
「……臣ってさ、モテるよな」
むくりと起き上がったアホが、枕を抱きながら伏し目がちにこちらを見る。
「…………」
「…………なに?」
口以上におしゃべりで、鬱陶しいほどに何かを訴えてくる顔。きらいじゃない。
「ブラのホック、どうやって外すか教えて」
――――は?
コントの類ではなく、冗談抜きで、シーツの上を頬杖がズルリと滑った。
こいつ、やっぱりまだ熱あるだろ。それとも高熱で脳ミソやられたか。
「ふつーに背中に手ぇ回して外せばいいじゃん」
「ばーかばーか。片手でさり気なくやるもんだろー」
枕に乗せられたふくれっ面を見上げたまま、鼻を鳴らすようにため息を吐く。
「体験談見てたら、うまくできなくて彼女に笑われたとかあってさ。しかもフロントホック?とか難関すぎ」
……うぜぇ。バカはお前だ。彼女もいないくせ、に――。
「え、彼女できた?」
「いや? でもいずれできるじゃん?」
「……片っ端から断ってなきゃ、とっくにできてるよ」
何気なく口から出た、といえば嘘だ。そう言わなきゃいけない気がした。
一刻も早く彼女を作って欲しい。心の片隅で、何年もそう願っている。
「それ考えてたんだけど、臣のせいでもあるよな」
「意味わかんねぇ」
「告白されてるときに、こう……なんていうか、臣のほうがキレイな顔してるよなーってなるんだよね」
その“キレイな顔”とやらを歪めたところで、見返される瞳は微動だにしない。どうやら本気で言っているらしい。
「いやほら、最初まじで女の子だと思ったって言ったじゃん。一応あれがオレの初恋なわけでさ」
知ってるよ。俺が『雅臣です』って言うまでの、流れ星レベルの初恋だろ。
「……え、怒った?」
「怒ってねぇよ」
不安げに顔色を伺ってくるアホな仔犬をかわしながら、スマホでメッセージを1通送る。ものの数秒で既読になったかと思いきや、返ってきたのは着信だった。
「悪い、ちょっと電話」
部屋のドアを完全に閉めてから、ため息を一つ吐いて通話ボタンを押す。
キレイな顔だと言われたくらいじゃ怒らない。でも、彼女を作らない理由に使われるのはごめんだ。
『言っとくけどこれは貸しだからね。あと! 9時くらいには帰るから、それまでには終わらせててよ』
「りょーかい」
『ぜぇーったいだからね!』
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