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そこまでのつもりはなくても、電話を切ると、なんとなく時間を確認してしまった。
スマホに表示された時刻から逆算して、あと3時間半。
あいつが俺を突っ撥ねるまでは、あと何分だろうか。それまでに俺は、友情か恋心かを選べるのだろうか。
薄ピンク地に黒のレースがついたブラジャーを手に、もう一度ため息を吐く。自分からお願いしておいてなんだが、あいつの姉ちゃんも大概だな。
「は――え、なにこれ」
部屋へ戻るやいなや、放るように渡した下着を見て、ただのアホが本格的なアホ面になった。
「お前の姉ちゃんの」
「はあぁぁ? バレたら瞬殺だって」
「本人が場所教えてくれたんだよ。ちゃんと新品」
「いや……本人がって、えっ、なんで?」
なんで、か。何も知らない弟からしてみれば、至極真っ当な疑問だろう。
――それは、テスト勉強の最中にアホが居眠りするから。
――それは、ひた隠しにしてきた初恋に魔が差したから。
――それは、“夏の日の過ち”に目撃者がいたから。
『キス見られたくらいでなんつー顔してんのよ。……お姉様が味方って、最強じゃない?』
あの勝ち気美人が微笑んでくれたおかげで、俺はこの2年間、何食わぬ顔でこいつの側にいれた。
だからきょとん、と目を丸くされても、こいつに詳細を話す気はない。
「なぁ、まじでつけんの? オレが外したいんだけど?」
「俺が手本をみせて、それからな」
渋々とストラップに腕を通す姿を見て、微かな罪悪感が音速で横切っていく。
「ストップ。Tシャツの上から着けてどうすんだよ」
大きな黒目が驚いたように瞬き、従順にTシャツが脱ぎ捨てられる。
好奇心が勝ったのか、真剣な悩みだったのか。もしくは頭がめでたいだけか。そのどれであろうと、少し心配になる。
「これホック見えないし無理じゃない? しかもなんで3つもあんの?」
ベッドの上で延々と身悶えられても困るので、膝立ちのまま背を向けさせた。
「なー、これやっぱ恥ずかしーんだけど」
「言い出したのはそっち」
引き締まった背面に、くっきりと浮かび上がる肩甲骨。そのラインに沿って下着の端を引き寄せ、まずは1番上のホックを掛ける。
「キレイな顔って言ったの、まだ怒ってる?」
「怒ってない。でも……俺は男だよ」
耳元で囁いた瞬間、日焼けの痕跡すらない白い腰が弓なりにうねった。
「ちょっ、近い近いッ!」
「それくらいちゃんと背筋伸ばせっつーの」
根に持ちすぎだとか、暑いだとか、苦しいだとか。そんなぼやきを右から左へ受け流し、残りのホックを留めていく。
窮屈さを確かめようと指を滑り込ませると、またピクリと背筋が伸びた。
「できたよ」
「あー……てかTシャツは着ていい?」
「うん」
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