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ベッドを軋ませながら、顔を突き合わせて座り直す。
「で? どんなシチュエーション?」
「えっと、彼女の家に遊びに来てて、なんかいい雰囲気になって……」
俺があぐらの上に頬杖をつく一方で、“彼女さん”はこぢんまりと膝を抱えた。
「いい雰囲気ねぇ。んで? いきなりブラ外すの?」
「ぁ……まずは近づいて……」
「どれくらい? 横? それとも正面?」
「よ、横で、お願いします」
ご希望通りに、ベッドから足を下ろして横に並ぶ。だがそこには、ゆうに2人は座れそうなほどの隙間があった。
「…………遠すぎじゃない? これじゃキスすらできないけど?」
「だっ、だから! くっつくと暑いんだって!」
俯く横顔は普段と変わらないが、栗色の髪から覗く耳だけが紅い。
「んじゃこのままでいいけど。次は?」
「……キス、する」
「するんじゃん」
「えっ――しない、よな?」
これは、“今は”ってことなのだろう。このまま墓穴を掘り続けたらどうなるか、たぶんこいつは、まだわかっていない。
「まじでやったら横に並んだ意味ないって!」
「なにそれ」
「臣の顔が――は、破壊力すごいから。正面向いてこんなんやってたら、明日から……お、臣の目ぇ見れない」
とりあえずはオブラートに包みました、ってところか。
「そっ、それにほら、オレってば風邪ひいてるし! うつすとヤバいじゃん――だろ?」
「んじゃ口、手で抑えてて」
…………はぁ。このあと何が起こったとしても、それは全て、可愛らしく両手で口元を覆ったアホのせい。全力で阻止したところで、そこは2年前――中3の夏に、既に侵されているのに。
にじり寄るように近づくだけで、まつ毛を巻き込むほどに、きつく目が閉じられる。
唇に触れた手は微かに震えていて、本当に熱かった。
「なあ、もう手ぇ離していいけど?」
背後に回した右手をTシャツの中へ滑り込ませると、塞がれたままの口から、声とも息遣いともつかない音が漏れる。
「……聡 」
お前はいつも言ってたじゃん、『聡いと書いてサトルです』って。
いい加減気づけよ。ちゃんと嫌がれよ。早く――。
「早く。次はどうすんのか、教えてよ」
空いている左手で聡の守備を解き、数分前までは許されなかった距離で見つめ合う。もしかしたら、気持ちを伝えるどうこう以前に、心臓の音でもうバレているかもしれない。
「……は」
「は?」
「はず――……」
口ごもった聡が、顔を伏せるように俺の肩へぽすっ、と柔らかい猫っ毛を乗せる。
「頭クラクラする」
「……うん、俺も。てかこの状況なに?」
「だからうつすって言ったじゃん。この2年、オレがどんだけ悩んだか臣はわかってないよ」
――――え。
聡は肩に顔を埋めたまま、ずーっとやべぇ夢見たと思ってたんだからな、と不貞腐れた。
「ちょっと聞いてる? 何回も! 今日もおっ、臣とキスする夢見てさっ! いい加減彼女作らないとヤバイって思うじゃん!」
人の首元でぐちぐちぐちぐち。うるさいし、くすぐったいし……きらいじゃない。
こいつは口以上に顔がおしゃべりだから、たぶん、当分は頭を上げない。それを知っているズルい俺は、黙って聡を腕の中に閉じ込めた。
―fin―
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