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第2話「閉廷」
* * *
「夜分にすまんけど、はよ起きろ。話の途中だ」
真夜中に叩き起こされたかと思えば、なにこの状況。恐怖よりも不可解さよりも、不機嫌さが遥かに上回っている。
「最悪。夢じゃなかったんだ」
「さっきぶりだねぇ」
数人の俺が俺を見下ろしていた。
「で、続きだけど」
「待って。まずどうやって入ってきたんだよ」
この質問に対し男たちは平然とした顔で「壁から」と言う。この状況に置いていかれているのは俺だけのようだ。
「普通に考えて、一人の人間が何人もいることってありえない。ドッペルゲンガーじゃあるまいし。それに」
下校中に俺を襲ったとみられる四人を一人一人確認する。一人だけ高校の制服を着ていることを除けば全員、今の俺よりも大人びて見える。そしてなにより気になるのが彼らの後ろにいる子どもたち。不安そうな様子で立っている彼らは――幼い頃の俺だ!
「いやほんと、意味わかんない。ありえないし。いろんな年代の俺が集まっちゃってんじゃん」
「あ、そうそう、まさにそれ。俺らは過去と未来からわざわざこの時代に出向いてやったんだよ」
テレレレー。頭の中で某猫型ロボットが「タイムマシーン!」と叫んだ。
もう決めた。これはやはり夢だ。そう捉えていないと気が狂う。
「陽射の人生の中で大きな分岐点に差し掛かるたび、そこで最善の選択ができるかを俺たちがジャッジしてやってんだ。お前の今日一日がまさにそれに当てはまる」
「お察しのとおりカゲの件な。なんで告らないの」
「チョコ作ったとこまでは良かったから安心して見れたのに、有給使って損した」
「チキってんじゃねえよあほ」
「お前が告白しなかったせいで今の俺たちが割り食ってんだよ」
「うるさいッ!! 一人ずつ言え!」
集中砲火が止んだ。代わりにベッドで眠っていた赤ん坊がおぎゃーおぎゃー泣き出す。律儀に生まれたての“俺”も参上したらしい。
「さっきから黙って聞いてれば俺のせいだけにして。大人気ないって思わない? 俺はこういうの初めてなんだよ。こういう経験全然ない。お前らだって昔は俺だったんだから分かるだろ。それに、そういうお前らこそどうなんだよ。ほら大学四年間の俺、挙手しろ。……全員いるな。カゲがどうとか責任転嫁する前に、もっといいやつと付き合えばいいだろうが」
「はっ。聞いた? カゲ以上のやつとだって? バカ言ってんじゃねえよ。お前の人生でな、あいつ以外いいやつはいなかった」
途端にまた大人の俺が巻き返しを図る。
「お前はこのあと女々しさ全開で後悔するぞ。あそこまでいいとこまで行けたのはカゲだけなんだから」
「大人になってからなんて最悪だからな。ろくなやつがいない。相手のリップサービスにまんまと引っかかって馬鹿みたいに本気になっちゃったりさ。そういう恋ばっかりすることになるんだよお前は」
「お前は俺たちの中での超戦犯だから。他でもない俺自身が言うんだから間違いない」
「カゲフミだけは逃しちゃいけなかった。あいつは俺の初恋なんだから」
「おんぎゃああああああああ」
泣きたいのは、こっちのほうだ。
「ヒサ、うるさい! 何時だと思ってるの!」
俺一人立ち尽くす部屋に、母の怒号が響いた。
ヒサ、どうして泣いてるの。
チョコが歯に沁みて、親知らずが痛い?
「一緒だな」
この思い、君は知らない。
了
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