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第5話
『『初恋はストリキニーネの味がする』
水坂信慧(のぶとし)
「俺、今度、結婚しようと思う」
確かそう言われたのに、僕の頭はなかなかそのことを理解できなかった。
苦しい。殺したい。苦しい。殺したくない。彼を殺したい。殺したくない。
結果、彼は死ななかった。ストリキニーネなど彼のカップに入られる程、僕に度胸はない。そんな度胸があれば、とっくに彼に告白でも何でもして死ねば良かったのだ。
だから……』
「だから、僕は自分のカップに毒を潜ませた。とっくに呼吸困難ではあったから、それに、眩暈と痙攣が加わる。初恋はストリキニーネの味がした」
水坂は墨野に気づかれないように静かに金庫を開けると、原稿を取り出して、途中の文章を飛ばしながら読んでいく。読み終えたら、水坂の手によって、一枚ずつ『初恋はストリキニーネの味がする』の原稿はゴミ箱へと消えていった。
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