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第1話
やや歪ながら十字型の痣がある手の甲。
黒いローブから見え隠れする白い腕。
ベージュとも淡い金色ともとれる髪。
それに、助かりたい一心で手を伸ばした空の色でも身体を持っていかれていく海の色でもない深い青色の目。
それが10年経った今でもルテスィ・ラディパが彼のことで覚えていることだった。
旧モンドブル帝国の東南部に位置する孤島・ドゥブル。
その島は元々、モンドブル帝国から独立したある宗派の修道院が断崖絶壁に建てられただけの小さな島だった。小さくて、おまけに、島の殆どが満潮時には大海の一部となって沈む。
かの修道士達は鉄骨で橋のような足場を何本も作り、島を補強しつつ、道を整備していった。そして、今日でもその足場が生活に使われており、ドゥブルに住む島民・ルスティも例外なくその足場を日々、渡り歩いて、運び屋の仕事をしていた。
「こんにちは、ドゥブル商会です。ブルアガヴェとご依頼の野菜をお持ちしました」
この島でいうところの運び屋というのは麻薬や拳銃といった禁制物を運ぶ者ではなく、所謂、配達を生業としている者の総称で、ルスティはドゥブル商会というドゥブルにある組合に雇われて、主に酒場やモーテルに酒や食料品などを運んでいた。
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