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第7話

 その話を聞いて、ルスティはアンセオはやはり他人の空似でがっかりしたが、自分が勝手に期待していただけで、それはアンセオに対して筋違いだろうと思い直した。 「ルスティさん、でしたね?」 「はい」 「貴方はどうして、この島で今も運び屋を?」  今日はやたらとその質問をされるなと思うと、ルスティは先程、店主に語ったのと同様に、アンセオの質問にも丁寧に答える。すると、アンセオはまたふふ、と笑った。 「彼のこと、お好きだったんですね? もしかして、貴方のPremier Amourだったとか?」  Premier Amour……それもchassis en acierと同じくモンドブルで使われている言語で「初恋」を意味する単語だった。 「ええ、まぁ……でも、もう良い思い出にすべきなんでしょうね。俺も良い年だ……」  ルスティは結婚願望がない男ではあるが、10年間も実らない初恋を抱いて、この以上、まだその初恋を拗らせてというのはあまりに惨めな気がしていた。 「良い思い出、ですか?」  アンセオは再び、ルスティの名前を呼ぶと、ルスティは「はい」と答える。 「私にとっておきの話があるんですけど、聞いていただけますか?」  アンセオはそう言うと、黒い薄手の手袋を外す。手袋を外し、晒されたのは白い手の甲にやや歪な十字型の痣だった。 「とっておきの話……私が船乗りになる前の話。あの修道院から逃げ出し、その途中である青年が海に落ちて、彼を引き上げた話。何故、逃げ出した筈のこの島に戻ってきた理由。私のPremier Amour……」  アンセオはまた微笑むように笑うと、「お願いします」と頼む。  アンセオの頼みにルスティとしては「はい」と言う選択肢しかなかった。

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